第一書房昭和一二(一九三七)年二月刊「學生版小泉八雲全集」第五 田部隆次氏「あとがき」
[やぶちゃん注:底本は英文サイト“Internet Archive”のこちらにある、第一書房が昭和一二(一九三七)年二月に刊行した「家庭版小泉八雲全集」(全十二巻)の第五巻の画像データをPDFで落として視認した。【2025年6月4日:底本変更・正字化不全・ミスタイプ・オリジナル注全補正】時間を経て、国立国会図書館デジタルコレクションに本登録し、現行では、以上の第一書房版昭和五(一九三〇)年十月に刊行した「學生版小泉八雲全集」(全十八巻)の第五巻が、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されてある。前掲の底本と本篇の内容は同じものであるが、やはり、外国のサイトのそれを底本とするのは、日本人小泉八雲に失礼であると考えた。されば、こちらで、再度、以下の「心」の作品群を改めて校正することとする。これが――私の小泉八雲への「義」――である。なお、これよりも前の元版の全集等が先行しているものの、私がそれらと比べた結果、実は先行する同社の「小泉八雲全集」のそれらは、訳が一部で異なっており、訳者等によって、かなりの補正・追加がされていることが、今回の正字補正作業の中で、はっきりと判って来た。そうした意味でも――完全な仕切り直しの総点検――が必要であると決したものである。従って、旧前振りの括弧・鍵括弧の問題も、拡大とガンマ補正で確認し、正確を期した。本「あとがき」標題はここから。 当該「あとがき」本文はここ。なお、本巻は四人の訳者による共訳であるが、「あとがき」は田部隆次氏によるもののみである。最後の田部氏の署名はポイント上げでもっと下方にある。
なお、幾つかの事項や人名等については、今まで電子化注の中で施してきたので、ここでは繰り返さない。その代わり、各作品には私の当該篇に直接にリンク(分割の場合はその初回)を施して便宜を図った。その関係上、一部に半角開けを施した。]
あ と が き
『東の國から』は一八九五年、ボストンのハウトン・ミフリン會社、及びロンドンのオスグッド・マックイルヴヱン會社から同時に出版された。出雲時代の友人西田千太郞氏に捧げてある。重に熊本時代の見聞に基づいて居るこの十一篇のうち「夏の日の夢」は『ヂヤパン・デイリー・メイル』に、「博多にて」 「永遠の女性に就て」 「赤い婚禮」 「叶へる願」の四篇は『太西洋評論』に、その以前發表された物である。
「九州學生」のうち、譯者が註に書いた當時の生徒の名は全部安河內麻吉氏の敎示によつた事を述べてここで謝意を表したい。當時は生徒の數も少なかつたので、文科と法科は勿論、理科工科も共通學課は時として一緖に授業を受けた事を注意すべきである。
『心』は一八九六年、ポストンのハウトン・ミフリン會社、及びロンドンのオスグツド・マツクマックイルヴヱン會社から同時に出版された[やぶちゃん注:「オスグツド・マツクマックイルヴヱン會社」の中黒「・」は底本にはないが、本来は必要である。これは、「オスグツド」が行末にあるための当時の植字工の行頭禁則に拠ってカットされたものであるので、特異的に入れた。]。友人雨森信成(のぶしげ)氏に捧げてある。熊本時代の物一部分を除いて大部分神戶時代になつた十五篇のうち「日本文化の眞髓」 「旅行日記より」 「戰後雜感」 「神佛の黃昏時」[やぶちゃん注:この最後の一篇の訳題は本篇では「薄暗がりの神佛」である。当該篇訳者が田部氏でなく、戸澤正保氏であるための齟齬に過ぎない。]の四篇は、その以前『大西洋評論』で發表されて居る。附錄の「俗唄三つ」は出雲松江附近の或部落を訪うて得た物である。
これ等の諸篇は多くは事實に基づいて居る。たとへば「停車場にて」の記事は、著者が實際巡査殺しの犯人を停車場に迎へたのであつた。「戰後雜感」 「コレラ流行時に」 「門つけ」の記事も皆事實であつた。「コレラ流行時に」の著者の家は神戶市中山手通、七丁目番外十六番にあつた。
著者は夫人にいつも話を聞くやうに、屑屋でも魚屋でも珍らしい經驗をもつた人の話を尊重して聞くやうにと云つた。神戶で門つけを呼び入れて歌を聞いたあとで御馳走をしてできたのがこの一篇であつた[やぶちゃん注:前文の最後に記された「コレラ流行時に」を指す。]。この歌の原文は一つから二十まである數へ歌。大阪の男女が京都の疏水で心中した事實を歌つた物。女が遺書を書いて居るところと、二つの新しい墓の繪があるだけ。歌の文句は「一つとせー、評判名高き西京の今度開けし疏水にて、浮名を流す情死の話」と云ふやうな物であつた。しかし十吉と云ふ男の名も、若菊と云ふ女の名も、印刷者發行人の名まで變へてある。
昭和二年二月 田 部 隆 次
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