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2020/03/17

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 隱沼

 

[やぶちゃん注:本篇については前の「杜に立ちて」の注を参照されたい。表題の「隱沼」は詩篇内で「こもりぬ」と訓じているのでそれに従う。]

 

  隱  沼

夕影(ゆふかげ)しづかに番(つがひ)の白鷺(しらさぎ)下(お)り、

槇(まき)の葉枯れたる樹下(こした)の隱沼(こもりぬ)にて、

あこがれ歌ふよ。──『その昔(かみ)、よろこび、そは

朝明(あさあけ)、光の搖籃(ゆりご)に星と眠り、

悲しみ、汝(なれ)こそとこしへ此處(こゝ)に朽(く)ちて、

我が喰(は)み啣(ふく)める泥土(ひづち)と融(と)け沈みぬ』──

愛の羽(は)寄(よ)り添(そ)ひ、靑瞳(せいどう)うるむ見れば、

築地(ついぢ)の草床(くさどこ)、涙を我も垂(た)れつ。

 

仰(あふ)げば、夕空さびしき星めざめて、

偲(しの)びの光の、彩(あや)なき夢の如く、

ほそ糸(いと)ほのかに水底(みぞこ)の鎖(くさり)ひける。

哀歡(あいくわん)かたみの輪廻(めぐり)は猶も堪えめ、

泥土(ひづち)に似(に)る身ぞ。 ああさは我が隱沼(こもりぬ)、

かなしみ喰(は)み去る鳥(とり)さへえこそ來(こ)めや。

            (癸卯十一月上旬)

 

   *

 

  隱  沼

夕影しづかに番(つがひ)の白鷺下(お)り、

槇の葉枯れたる樹下(こした)の隱沼(こもりぬ)にて、

あこがれ歌ふよ。──『その昔(かみ)、よろこび、そは

朝明、光の搖籃(ゆりご)に星と眠り、

悲しみ、汝(なれ)こそとこしへ此處に朽ちて、

我が喰(は)み啣(ふく)める泥土(ひづち)と融け沈みぬ』──

愛の羽(は)寄り添ひ、靑瞳(せいどう)うるむ見れば、

築地(ついぢ)の草床、涙を我も垂れつ。

 

仰げば、夕空さびしき星めざめて、

偲びの光の、彩なき夢の如く、

ほそ糸ほのかに水底(みぞこ)の鎖ひける。

哀歡かたみの輪廻(めぐり)は猶も堪えめ、

泥土に似る身ぞ。 ああさは我が隱沼、

かなしみ喰み去る鳥さへえこそ來(こ)めや。

            (癸卯十一月上旬)

 

[やぶちゃん注:「泥土に似る身ぞ。 ああさは我が隱沼、」の字空けはママ。全集は詰める。

「癸卯十一月上旬」「杜に立ちて」の後注を参照。

 本篇本文は初出形(『明星』明治三七(一九〇四)年一月号(辰歳第一号))とは、かなり有意な異同があり、詩想上でも大きな変異があるので、最後に初出形を示す。底本は筑摩版全集を参考に、初版の表記を参照して漢字を恣意的に正字化した。

   *

    四――隱 沼

夕空靜かに番(つがひ)の白鷺下(お)り、

槇(まき)の葉枯れたる樹影の隱沼(こもりぬ)にて、

何をか憧(こが)れうたふや、うら悲しく

靑瞳(せいどう)うるみて寄り添ふ、愛の姿。

あゝまた鳴けるよ。――『その昔(かみ)、よろこび、そは

朝明(あさあけ)光の搖籃(ゆりご)に星と眠り、

悲哀(かなしみ)、汝(なれ)こそとこしへこゝに朽ちて、

我が喰(は)み啣(ふく)める泥土(ひづち)と融(と)け沈みぬ。』

 

自然が彫(ゑ)りたる無言の默示(さとし)の鏨(のみ)、

げにこれ貴きこの世の律(おきて)なれや。

見よかの蒼穹(おほぞら)、寂しき星目ざめて、

追懷(しの)びの光ぞ水底(みぞこ)の鎖(くさり)ひける。

哀歡(あいくわん)かたみの輪廻(めぐり)に人たどるを、

誰かは世の事極みの日ありと云ふ。

   *

初出形は第二連が論述的で、景観が添え物として薄っぺらく、その代わりに、妙に新訳聖書の「ヨハネの黙示録」を意識した如何ともし難い変な臭さがある。]

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