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2020/03/17

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 啄木鳥

 

[やぶちゃん注:本篇については前の「杜に立ちて」の注を参照されたい。表題の「啄木鳥」は詩篇内で「きつつきどり」と訓じているのでそれに従う。]

 

  啄 木 鳥

いにしへ聖者(せいじや)が雅典(アデン)の森に撞(つ)きし、

光ぞ絕えせぬ天生(てんせい)『愛』の火もて

鑄(ゐ)にたる巨鐘(おほがね)、無窮のその聲をぞ

染めなす『綠(みどり)』よ、げにこそ靈の住家(すみか)。

聞け、今、巷(ちまた)に喘(あへ)げる塵(ちり)の疾風(はやち)

よせ來て、若(わか)やぐ生命(いのち)の森の精(せい)の

聖(きよ)きを攻(せ)むやと、終日(ひねもす)、啄木鳥(きつゝきどり)、

巡(めぐ)りて警告(いましめ)夏樹(なつぎ)の髓(ずゐ)にきざむ。

 

徃(ゆ)きしは三千年(みちとせ)、永劫(えいごう)猶すすみて

つきざる『時』の箭(や)、無象(むしやう)の白羽(しらは)の跡(あと)

追(お)ひ行く不滅の敎(をしへ)よ。──プラトー、汝(な)が

淨(きよ)きを高きを天路(てんろ)の榮(はえ)と云ひし

靈をぞ守りて、この森不斷(ふだん)の糧(かて)、

奇(くし)かるつとめを小(ちい)さき鳥のすなる。

            (癸卯十一月上旬)

 

   *

 

  啄 木 鳥

いにしへ聖者が雅典(アデン)の森に撞きし、

光ぞ絕えせぬ天生『愛』の火もて

鑄(ゐ)にたる巨鐘(おほがね)、無窮のその聲をぞ

染めなす『綠』よ、げにこそ靈の住家。

聞け、今、巷に喘げる塵の疾風(はやち)

よせ來て、若やぐ生命(いのち)の森の精の

聖きを攻むやと、終日(ひねもす)、啄木鳥(きつゝきどり)、

巡りて警告(いましめ)夏樹(なつぎ)の髓にきざむ。

 

徃きしは三千年(みちとせ)、永劫猶すすみて

つきざる『時』の箭(や)、無象(むしやう)の白羽の跡

追ひ行く不滅の敎よ。──プラトー、汝(な)が

淨きを高きを天路の榮(はえ)と云ひし

靈をぞ守りて、この森不斷の糧、

奇(くし)かるつとめを小さき鳥のすなる。

            (癸卯十一月上旬)

[やぶちゃん注:「雅典(アデン)」古代ギリシャのアテネ。同地は「アテーネー」(単数形)・「アテーナイ」(複数形)・「アゼンス」・「アテエン」の他「アデン」とも音写する。

「光ぞ絕えせぬ天生『愛』の火」以下のプラトンが説くに至る「善のイデア」への至上にしして不滅の愛を永遠に消えぬ「火」に喩えたものであろう。そもそも哲学とは愛智学の意であり、プラトンにとってのそれは肉体から解脱した魂が純粋な存在として生きることを理想とした。

「プラトー」古代ギリシャの哲学者で、ソクラテスの弟子にしてアリストテレスの師であるプラトン(紀元前四二七年~紀元前三四七年)。

「癸卯十一月上旬」「杜に立ちて」の後注を参照。

 果たして啄木が如何なる鳥としてキツツキを措定しているかは、今一つ判然としないが、人間の中の悪しきものへの警告を発するものとして詠んでいるようには読める。しかし、古代ギリシャでは母性神の象徴であるオークを嘴で啄くことから、性的欲望の象徴とされたが、一方でまた、古代ローマの博物学者プリニウスの「博物誌」の第十巻の二十で「軍神マルス神のキツツキ」を取り上げ、前兆を判ずる鳥占いをするのに重要な生き物であると記している。後者は本篇を読み解くには力になりそうではある。

 本篇本文は初出形(『明星』明治三七(一九〇四)年一月号(辰歳第一号))と微妙な点でかなりの異同がある(五行目の改変は有意に大きく、最後に原注が附くのも特異点である)。主にそれは表記上の違いで(記号を含む)、詩篇自体の詩想には違いはないが、ここでは最後に初出形を示すこととする。底本は筑摩版全集を参考に、初版の表記を参照して漢字を恣意的に正字化した。

   *

    三――啄 木 鳥

徃昔(いにしへ)聖者(せいじや)が雅典(アデン)の森に撞(つ)きし

光ぞたえせぬ天生(てんせい)愛の火もて

鑄にたる巨鐘(おほがね)、無窮のその音(おと)をぞ

染めつる『綠』よ、げにこそ靈の住家(すみか)、

そを今溷(にご)れる叫喚(さけび)の巷の風

寄せ來て、若やぐ生命(いのち)の森の精(せい)の

聖(きよ)きを攻むやと、終日(ひねもす)、啄木鳥(きつゝきどり)、

巡(めぐ)りて警告(いましめ)夏樹(なつき)の髓(ずゐ)に刻む。

 

徃(ゆ)きしは三千年(みちとせ)、永劫(えいごふ)なほ進みて

盡きざる『時』の箭(や)、無象の白羽(しらは)のあと、

追ひゆく不滅の敎よ。プラトオ、汝(な)が

淨(きよ)きを、高きを、天路の榮(はえ)と云ひし

靈をぞ守りてこの森不斷の糧(かて)、

奇かる務めを小(ちひ)さき鳥のすなる。

 (プラトー四十にして長き船よりアテエネにかへり、

 其アカデミイを郊外の林園に造りぬ。)

    *

「えいごふ」「ちひ」はママ。「プラトオ」と「プラトー」の表記違いもママ。後注は一行ベタ書きで全体が一字下げであるが、ブラウザの不具合を考え、改行して示した。ウィキの「プラトン」によれば、紀元前三八七年、四十歳頃、『プラトンはシケリア旅行からの帰国後まもなく、アテナイ郊外の北西、アカデメイアの地の近傍に学園を設立した。そこはアテナイ城外の森の中、公共の体育場が設けられた英雄アカデモス』『の神域であり、プラトンはこの土地に小園をもっていた』。『場所の名であるアカデメイアがそのまま学園の名として定着した。アカデメイアでは天文学、生物学、数学、政治学、哲学等が教えられた。そこでは対話が重んじられ、教師と生徒の問答によって教育が行われた』とある。]

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