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2020/04/01

大和本草卷之十三 魚之下 鱧魚(れいぎよ)・海鰻(はも) (ハモ・ウツボ他/誤認同定多数含む)

 

鱧魚 順和名ニハムト訓スアヤマレリハモハ海鰻ナリ唐

 音ナリ鱧ハ筑紫ノ方言ウミウナキト云海魚アリ本草

 ニイヘルゴトク形長ク體圓ク頭ト同大サニテ相等

 シク細鱗玄色ニ乄星アリ形少蝮蛇ニ似タリ尾マタナ

 ク其形ミクルシク可悪日本人ハ食セス本屮ニイヘルニ能

 合ヘリ又別ニ一種ウミウナギト云物アリソレハツ子ノ

 ウナギニ似タリ食スヘシ鱧ニハアラス或曰長崎ニキダ

 コト云魚鱧ナルヘシト今其形狀ヲ見ルニ鱧魚ニアラス

 又或曰丹後ノ海ニツノジト云魚アリコレ鱧ナルヘシト

 云非也ツノシハフカノ類皮ニサメアリ筑紫ニテモダ

 マト云魚ニ能相似タリ鱧トハ別也

海鰻 唐音ハモ本草曰海鰻鱺似鰻鰻而大トイヘリ

 日本ニアヤマリテ鱧魚ヲハモト訓ズ長崎ニテ中華人

 ハモヲ海鰻ト云ウナキヲ淡鰻ト云國俗ハモノ小ニ乄肉

 ウスキヲゴンギリト云ヒ脯トス生海鰻肉餻ト乄尤佳シ

 

○やぶちゃんの書き下し文

鱧魚〔(れいぎよ)〕 順が「和名」に「はむ」と訓ず〔は〕あやまれり。「はも」は海鰻(ハイマン)なり。唐音なり。鱧は、筑紫の方言〔に〕「うみうなぎ」と云ふ海魚あり、「本草」にいへるごとく、形、長く、體、圓〔(まろ)〕く、頭と同じ大いさにて相ひ等(ひと)しく、細き鱗、玄色にして星あり。形、少し蝮蛇〔(まむし)〕に似たり。尾、「また」なく、其の形、みぐるしく、悪〔(にく)〕むべし。日本人は食せず。「本屮〔(ほんざう)〕」[やぶちゃん注:「屮」は「艸」の略字。]にいへるに、能く合へり。

又、別に一種「うみうなぎ」と云ふ物、あり。それは、つねのうなぎに似たり。食すべし。鱧にはあらず。

或いは曰く、『長崎に「きだこ」と云ふ魚、鱧なるべし』と。今、其の形狀を見るに鱧魚にあらず。

又、或いは曰く、『丹後の海に「つのじ」と云ふ魚あり。これ、鱧なるべし』と云ふ〔も〕非なり。「つのじ」は「ふか」の類〔にして〕皮に「さめ」あり。筑紫にて「もだま」と云ふ魚に能く相ひ似たり。鱧とは別なり。

 

海鰻(はも) 唐音「ハモ」。「本草」に曰く、『海-鰻-鱺〔(はいまんれい)〕、鰻鰻[やぶちゃん注:ママ。「鰻鱺」の誤記と思われる。後注参照。「鰻鱺」はウナギを指す。]に似て大なり』といへり。日本に、あやまりて「鱧魚」を「はも」と訓ず。長崎にて、中華人、「はも」を「海鰻〔(ハイマン)〕」と云ひ、「うなぎ」を「淡鰻〔(タンマン)〕」と云ふ。國俗、「はも」の小にして肉うすきを「ごんぎり」と云ひ、脯(ほしもの)とす。生-海-鰻、肉餻(かまぼこ)として尤も佳し。

[やぶちゃん注:益軒は「鱧魚」と「海鰻」を項立して、両者を異なった魚類とした。確かに実際に里俗に於いて混乱があるのは間違いないのだが、結局、こういう区別を断行してしまった結果として混乱はますます悪化したのでないかと私は考えるので、ここでは徳的に続いている二項を続けて示した。また、益軒が挙げている複数種を判読し易いようにこれも例外的に改行と行空けを施した。

 まず、本来の本邦に於ける「鱧」はハモであり、「海鰻」もまたハモとしてよい。後者は現代中国語でもハモである(但し、単漢字「鱧」は現代中国語ではライギョを指す語として用いられるようである(しかし漢和辞典にはその用法はない)。後の引用を参照)。而して真正のそれは、

条鰭綱ウナギ目ハモ科ハモ属ハモ Muraenesox cinereus

である。問題は漢語としての「鱧」或いは「鱧魚」が益軒の記載時に何を指したかで、大修館書店「廣漢和辭典」によれば、第一に、

「大鯰(おおなまず)」(条鰭綱新鰭亜綱骨鰾上目ナマズ目ナマズ科ナマズ属ナマズ Silurus asotus の老成巨大個体或いはナマズ科 Siluridae に属する種の中で大型になるもの)

であり、第二に「生きた化石」と呼ばれる

「八目鰻(やつめうなぎ)」(無顎上綱頭甲綱ヤツメウナギ目 Petromyzontiformes のヤツメウナギ類。本邦にはカワヤツメ属のカワヤツメLethenteron japonicum・スナヤツメLethenteron reissneri・シベリアヤツメLethenteron kessleri 及び、ミツバヤツメ属ミツバヤツメLampetra tridentataの四種が棲息する。なお、名に「ウナギ」とつくが、ウナギ類とは全く異なる動物であり、しかも現行の狭義の「魚類」からも外れていて脊椎動物としても非常に原始的な生物である)

であって、ここで益軒が「ハモ」でない「鱧」或いは「鱧魚」として挙げているものは総て、これ、外れ、誤りであることを最初に言っておく。

 まずウィキの「ハモ」より引用しておく。『沿岸部に生息する大型肉食魚で、京料理に欠かせない食材として扱われる。生鮮魚介類として流通する際には』同属近縁種であるスズハモ Muraenesox bagio も『一般に「ハモ」と称されており区別されていない』。『名前の由来には、食む(はむ)』(咬む)『に由来するとみる説、「歯持ち」に由来するとみる説、中国語の「海鰻」(ハイマン)に由来するとみる説、マムシに姿が似ていたことから蝮(ハミ)に由来するとみる説、食感が「はもはも」している』ことに由来する『という説、口を張ってもがくことに由来するとみる説など諸説ある』。但し、『中国語由来説については、中国では海鰻と称して食されているものの』、『可能性が低いと』もする。『地方名にハム(広島県)、スズ(徳島県)、バッタモ(京都府丹後地方)、ウニハモ(福井県)、カマスアナゴ(長崎)など』がある。但し注意が必要なのは、『北海道・東北地域ではアナゴ類』(アナゴ科 Congridae)『もしくはマアナゴ』(ウナギ目アナゴ亜目アナゴ科クロアナゴ亜科アナゴ属マアナゴ Conger myriaster)『のことをハモあるいはハモの古語であるハムと呼ぶ地域が広域に存在する』ことである。羅臼で食った「黒ハモ」は実に美味かった。『現代中国語でハモは「海鰻」(hǎimán)といい、「鱧」(lǐ)という漢字はライギョ類を表す』(これは恐らくは大鯰の用法が廃れてこれが雷魚に援用されたものであろう。淡水魚のライギョ(スズキ目タイワンドジョウ亜目タイワンドジョウ科 Channidae の総称。本邦では専ら中国産の外来種タイワンドジョウ属カムルチー亜種カムルチー Channa argus argus を指す)は大鯰と並べて遜色ないもの巨大個体(最大一メートル)となり、水鳥の幼鳥・鼠・蛇をさえも捕食する性質の荒い貪欲な魚だからである。なお、後の「本草綱目」引用の私の注も参照のこと)。『全長1mほどのものが多いが、最大2.2mに達する。体は他のウナギ目魚類同様に細長い円筒形で、体色は茶褐色で腹部は白く、体表に鱗がない。体側には側線がよく発達し、肛門は体の中央付近にある。ウナギ目の中では各ひれがよく発達していて、背びれは鰓蓋の直後、尻びれは体の中央付近から始まって尾びれと連続する。胸びれも比較的大きい』。『口は目の後ろまで裂け、吻部が長く発達し、鼻先がわずかに湾曲する。顎には犬歯のような鋭い歯が並び、さらにその内側にも細かい歯が並ぶ。漁獲した際には大きな口と鋭い歯で咬みついてくるので、生体の取り扱いには充分な注意が必要である。ハモという和名も、前述のようによく咬みつくことから「食む」(はむ)が変化した呼称という説もある』。『西太平洋とインド洋の熱帯・温帯域に広く分布し、日本でも本州中部以南で見られる』。『水深100mまでの沿岸域に生息し、昼は砂や岩の隙間に潜って休み、夜に海底近くを泳ぎ回って獲物を探す。食性は肉食性で小魚、甲殻類、頭足類などを捕食する』。『産卵期は夏で、浮遊卵を産卵するが、ウナギのような大規模な回遊はせず、沿岸域に留まったまま繁殖行動を行う。レプトケファルスは秋にみられ、シラス漁などで混獲されることがある』。『ウナギ目の他の魚同様、血液に有毒なイクシオトキシン』(ichthyotoxin)『を含むが、加熱によりそれを失活させて食べることができる』とある。ウナギ好きの方でもこの血清毒が危険な事実を知らない人が多い。要注意である。目に入ると失明することさえあるのである。

『順が「和名」に「はむ」と訓ず』「和名類聚抄」巻十九の「鱗介部第三十」の「龍魚類第二百三十六」に、

   *

鱧魚(ハム) 「本草」に云はく、『𩽵魚【上の音「禮」、和名「波無」。】]、味、甘寒にして毒無き者なり』と。陶隠居が注に云はく、『「𩽵」、今、「鱧」の字に作るなり』と。

   *

しかし、ここで李時珍の「本草綱目」第四十四巻「鱗部二」の「鱗之四【無鱗魚二十八種。付錄九種】のそれを見ると、

   *

鱧魚【「本經上品」】

〔釋名〕蠡魚【「本經」】・黒鱧【「圖經」】・玄鱧【「埤雅」】・烏鱧【「綱目」】鮦魚【音「同」。「本經」】・文魚

【時珍曰、『「鱧」首有七星、夜朝北斗有自然之禮、故謂之鱧、又與蛇通氣色黑、北方之魚也。故有玄黑、諸名俗呼「火柴頭魚」、卽此也。其小者名「鮦魚」。蘇頌「圖經」引「毛詩諸註」謂、鱧卽「鯇魚」者誤矣。今直削去、不煩辯正』。】

〔集解〕【別錄曰、『生九江池澤取無時』。弘景曰、『處處有之。言是公蠣蛇所化、然亦有相生者性、至難死。猶有蛇性也』。時珍曰、『形長體圓、頭尾相等、細鱗玄色、有斑點花文、頗類蝮蛇、有舌有齒、有肚、背腹有鬣連尾、尾無岐、形狀可憎氣息鮏惡食、品所卑、南人有珍之者北人尤絕之道家指爲水厭齋籙所忌』。】

〔肉〕氣味甘寒無毒。有瘡者不可食、令人瘢白【「別録源」曰、『有小毒無益不宜食之』。宗奭曰、『能發痼疾療病亦取其一端耳』。】[やぶちゃん注:後の「主治」以下は略す。]

   *

特異的に長々と引いたのは、この「本草綱目」の「鱧魚」は、まず、「生九江池澤」で海水魚ではないことである。「北方之魚」で「形長體圓、頭尾相等、細鱗玄色」「背腹有鬣連尾、尾無岐、形狀可憎氣息鮏惡食」というのは正しくナマズ類を想起させる。但し、これらに「首有七星」というのを加味すると、私は現在の中国語の指すライギョ類(スズキ目タイワンドジョウ亜目タイワンドジョウ科 Channidae のライギョ(雷魚)類)とも非常によく合致することが判る。或いは辞書に載らぬだけで、中国北部ではカムルーチやライギョ類を実は古くから「鱧」と呼称していたのではなかったか? ともかくも「鱧魚」はハモではないことが明らかであり、巨大なナマズを現に見たこともなかったのかも知れない益軒、カムルーチを知らない益軒(本邦にいる中国産亜種のそれは大正末期(一九二三年~一九二四年頃)に朝鮮半島から奈良県に持ち込まれて全国に広がったものである。食用になるが、生食すると危険な顎口虫症の感染がある。しかし、実際には刺身は食った知人によればとても美味いそうである)が同定を誤ったのは仕方がないとは言えるが、「本草綱目」をちゃんと読めば、少なくとも海産魚類でないことは素人目にも明白だから、杜撰な同定という誹りは免れない。

「唐音」これは単に中国音写の意。

「鱧は、筑紫の方言〔に〕「うみうなぎ」と云ふ海魚あり」この部分、文章として不全で、「鱧は按ずるに」の謂いである。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のウツボのページの「地方名・市場名」の欄に『ウミウナギ』とあり、三重県志摩地方では「ウナギ」普通の「ウナギ」を「川ウナギ」と呼、ウツボを単に「ウナギ」と呼ぶともある。但し、「ウミウナギ」は益軒が「海鰻」と記している如く「ハモ」の別名でもある。而して、益軒は「鱧魚」を「ウツボ」(ウナギ目ウツボ亜目ウツボ科ウツボ亜科ウツボ属ウツボ Gymnothorax kidako)に同定していしまうという致命的な誤りをここで犯してしまったのである。

「日本人は食せず」そんなことはない。私は干物と唐揚げを食べたが、後者は特に非常に美味い。上のぼうずコンニャク氏のページに『比較的暖かい海域の岩礁域に食用にする地域と、しない地域があ』り、『暖かい主に太平洋側で食用になっている』。『千葉県外房の冬期のウツボの開き干しは風物とも言えそうだが、伊豆半島、紀伊半島、徳島県、高知県などでよく食べられている』とあって各種調理法が載るが、何れも病みつきになるほど美味いとある。

『「本屮〔(ほんざう)〕」にいへるに、能く合へり』魚体の解説を勝手にウツボに牽強付会しただけのことである。

『別に一種「うみうなぎ」と云ふ物、あり。それは、つねのうなぎに似たり。食すべし。鱧にはあらず』これは産卵のための降河回遊(こうかかいゆう)で海に下ったウナギ目ウナギ亜目ウナギ科ウナギ属ニホンウナギ Anguilla japonica を獲ったか、或いはアナゴ類やマアナゴを漁師がそう呼んでいるのをただの聴き書きで安易に載せたに過ぎない。

「『長崎に「きだこ」と云ふ魚、鱧なるべし』と。今、其の形狀を見るに鱧魚にあらず」益軒は見たのなら、何故、その形状を記載し、種同定をしないのか? 実はこれも実際にはそれを見ていないからではないか? 何故なら、ウツボには「ナマダ」(東京)・「ジャウナギ」(伊豆半島)・「ヘンビ」(和歌山県)・「ヒダコ」(愛媛県)・「キダカ」(鹿児島県)「キダコ」(神奈川県三崎地区・長崎県ウツボの種小名の「kidako」はそれに因む)など多くの方言呼称があり、「キダカ」「キダコ」といった地方名は「気が荒い」ことを表わす「気猛」に由来するとされる(但し、ハモも引用で示した通り。咬まれるとかなり危険ではある)。

「つのじ」「ツノジ」はギンザメ類(軟骨魚綱全頭亜綱ギンザメ目Chimaeriformes或は代表種ギンザメ目ギンザメ上科ギンザメ科ギンザメ属ギンザメ Chimaera phantasma)の異名として広汎に見られる呼称である。私の『栗本丹洲 魚譜 異魚「ツノジ」の類 (ギンザメ或いはニジギンザメ)』(丹洲の同「魚譜」には六図に及ぶギンザメ類が描かれている。私のカテゴリ「栗本丹洲」を参照)や、『博物学古記録翻刻訳注 17 「蒹葭堂雑録」に表われたるギンザメの記載』を見られたい。

『「つのじ」は「ふか」の類〔にして〕皮に「さめ」あり』ここは正しくギンザメを益軒は認識している。

「筑紫にて「もだま」と云ふ魚に能く相ひ似たり」サイト「食ログ」の「信長本家 博多筑紫口店」の感想記載に、店の人の説明に『「モダマ」は鮫の脂』とあり、abukamo氏のブログ「あぶかも」の「モダマ三種」に、『博多では「モダマ」という名前で湯引きしたサメが売られてい』るとあり、そこでは軟骨魚綱ネズミザメ上目メジロザメ目ドチザメ科ホシザメ属ホシザメ Mustelus manazo の三種の調理品が並ぶ。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のホシザメのページの「地方名・市場名」の欄に『モダマ』が載り、『頭を取り、湯引いた』『状体のもの』とあり、現認地を『長浜鮮魚市場』・『熊本市田崎鮮魚市場』・『福岡県博多(福岡市)、熊本県熊本市』と挙げる。「ホシモダマ」の異名もある。「ホシ」は「星」で白い星状の斑文が目立つことによる。但し、近縁種のドチザメ科ドチザメ属ドチザメ Triakis scyllium も「モダマ」と呼ばれ(同じくぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のドチザメのページを参照されたい。やはり食用となる)、軟骨魚綱カスザメ目カスザメ科カスザメ属カスザメ Squatina japonica もそう呼ばれる。或いは、福岡(もしかすると別の地方でも)では広く「サメ」「フカ」或いは鮫の肉を「モダマ」と呼んでいる可能性があるようにも思われる。「モダマ」の由来は不明であるが、一番に「藻玉」が想起されはする。一部の卵生サメ類の皮革状卵嚢はまさに「藻玉」に相応しい形状を成すが、本種は卵胎生であるから違う。或いは、別種の卵生のサメのそれをサメ類全般がそうだと誤認した「サメ」の異称なのかも知れない。ここまで苦労して書きながら、何だか前に幾つかのことは書いた気がしてきた。オオボケだ! 去年の八月に、この大和本草卷之十三 魚之下 フカ (サメ類(一部に誤りを含む))」(サメ類の総論項)で注したことが結構ダブっていたのであった。遅まきながら、そちらも参照されたい。

「海鰻(はも)」『唐音「ハモ」』これは先の引用にもあった「海鰻〔(ハイマン)〕」の短縮形説を益軒が採ったものである。『長崎にて、中華人、「はも」を「海鰻〔(ハイマン)〕」と云ひ、「うなぎ」を「淡鰻〔(タンマン)〕」と云ふ』がその証左だというのである。但し、私はどうもこの語源説は迂遠に過ぎ、信じるに足らない気がしている。

『「本草」に曰く、『海-鰻-鱺〔(はいまんれい)〕鰻鰻に似て大なり』』同前の部に、

   *

海鰻鱺【「日華」】

〔釋名〕慈鰻鱺【「日華」】。狗魚【「日華」】。

〔集解〕「日華」曰、『生東海中。類鰻鱺而大功用相同』。

〔氣味〕主治。同鰻鱺、治皮膚惡瘡疥疳䘌痔瘻【「日華」】。按時珍曰、李九華云、『狗魚暖而不補卽此』。

   *

とある。「日文研」の「近世期絵入百科事典データベース」の「訓蒙図彙」の「海鰻」に明らかにハモの図を載せ、説明に「今、按ずるに、『はも』。蓋し唐音の誤りなり。『狗魚』・『猧狗魚』・『慈鰻鱺』、並びに同じ。或いは曰く、『白鰻』」とある(訓読して読み易くした)。但し、「狗魚」という語は鋭い歯を持っていることに由来するようだが、現代中国語では条鰭綱カワカマス目 カワカマス科カワカマス属 Esox を指す語であるので(やはり強烈な歯を保有する)、死語とした方がよかろう。

「國俗」本邦の巷間の意。

『「はも」の小にして肉うすきを「ごんぎり」と云ひ、脯(ほしもの)とす』「脯(ほしもの)」は干物のこと。小学館「日本国語大辞典」に『小さい鱧(はも)を丸干しにしたもの。細かく刻んで、なますなどにする。《季・夏》』とし、例文に江戸初期に成立した「甲陽軍鑑」の「品四四」の『御二之膳 蒲穂子(かまぼこ)、小鱧(ゴンギリ)、鳥冷汁』を引き、次に本「大和本草」の部分を載せるから、この語は遡ったとしても戦国末期である(「甲陽軍鑑」の作者は江戸初期の甲州流軍学の祖小幡景憲(おばたかげのり)説が有力で、もと武田氏家臣で、後に徳川家に仕えた)。さらに「語源説」には⑴『五寸切りの義。〔魚鑑〕。⑵ハモコギリ(鱧小切)の変化したハモゴンキリの略〔大言海〕』とある。]

 

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