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2020/04/01

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 夢の花

 

[やぶちゃん注:本篇は「早稲田大学図書館古典籍総合データベース」の本初版本のこちらの画像で判る通り、全体が今までの本文から二字下げで記されてある、それを再現した。]

 

    夢 の 花

 

  まぼろし縫(ぬ)へる

  白衣(びやくい)透(す)き、ほのぼのと

  愛にうるほふ、それや白百合、

  靑綠(みどり)摺(す)りたる

  弱肩(よはがた)の羅綾(うすもの)は

  夢の熖の水無月日射(みなづきひざし)、

  搖(ゆ)れて覺(さ)めにき和風(やはかぜ)に、

  眠ま白き夏の宮。

   (ああ我がいのち

    夏の宮。)

 

  夢は破れき。

  ああされど、(この姿、

  この天(あま)けはひ、現(うつゝ)ながらに、)

  こころ深くも

  夢は猶、玉渦(たまうづ)の

  光匂(にほ)ひの波わく淵(ふち)や。

  姬は思ひぬ、極熱(ごくねつ)の

  南(みなみ)綠(みどり)の愛の國。

   (ああ我がいのち

    愛の國。)

 

  光の唇(くち)に

  曙(あけぼの)ぞよみがへり、

  靑風(あをかぜ)小琴(をごと)ただよふ森に、

  逝(ゆ)きてかへらぬ

  夢の夜の調和(とゝのひ)を

  あこがれうるみ露吹く聲に

  姬はうたひぬ、驕樂(きやうらく)の

  逝きてかへらぬ黃金(こがね)の世(よ)。

   (ああ我がいのち

    黃金の世。)

 

  葉を蒸(む)す白晝(まひる)、

  百鳥(もゝとり)の生(せい)の謠(うた)

  あふれどよめく綠搖籃(みどりゆりご)の

  枝(えだ)洩(も)れて地に

  照りかへる强き日の

  夏をつかれて、かほる吐息に

  姬は悵(いた)みぬ、常安(とこやす)の

  凉影(すゞかげ)甘(あま)き詩(うた)の海。

   (ああ我がいのち

    詩の海。)

 

  山波(やまなみ)遠く

  沈む日の終焉(をはり)の瞳(め)、

  今か沈みて、熖の白矢(しらや)、

  涯(はて)なき涯を

  わかれ行く魂(たま)の如、

  うすれ融(と)け行く地の黃昏(たそがれ)に

  姬は祈りぬ、大天(おほあめ)の

  靈のいのちの夢の鄕(さと)。

   (ああ我がいのち

    夢の鄕。)

 

  ひと日、日すでに

  沈みゆき、乳香(にふかう)の

  夜(よる)の律調(しらべ)を戀ふ百合姬(ゆりひめ)が

  待夜(まちよ)ののぞみ、

  その望み先(ま)づ破(や)れて、

  暗に楯(たて)どる嵐の征矢(そや)に

  姬はたをれぬ、殘る香の

  いと悵(いた)ましき夢の花。

  (ああ我がいのち

   夢の花。)

 

  水無月(みなづき)ふかき

  森かげの一(ひと)つ百合、

  見えて見えざる世にあこがれし

  ああその夢の

  瞿粟花(けしばな)のにほひ羽(ばね)、

  あまりに高く淸らかなれば、

  姬は萎れぬ、夜嵐の

  妬(ねた)みに折(を)るる信(しん)の枝。

  (ああ我がいのち

   信の枝。)

 

  香柏(かうはく)の根に

  (幻や、げに)あはれ

  夢の名殘を葬むり去りて、

  去りて嵐の

  血寂(ちさ)びたる矢叫(やさけ)びは

  いづち行きけむ。──ただ其夜より

  姬は匂ひぬ靑玉(せいぎよく)の

  天壇(てんだん)い照る藝(げい)の燭(しよく)。

  (ああ我がいのち

   藝の燭)

           (甲辰五月十一日夜)

 

   *

 

    夢 の 花

 

  まぼろし縫へる

  白衣(びやくい)透き、ほのぼのと

  愛にうるほふ、それや白百合、

  靑綠(みどり)摺りたる

  弱肩(よはがた)の羅綾(うすもの)は

  夢の熖の水無月日射(みなづきひざし)、

  搖れて覺めにき和風(やはかぜ)に、

  眠ま白き夏の宮。

   (ああ我がいのち

    夏の宮。)

 

  夢は破れき。

  ああされど、(この姿、

  この天(あま)けはひ、現ながらに、)

  こころ深くも

  夢は猶、玉渦の

  光匂ひの波わく淵や。

  姬は思ひぬ、極熱の

  南綠の愛の國。

   (ああ我がいのち

    愛の國。)

 

  光の唇(くち)に

  曙ぞよみがへり、

  靑風小琴(をごと)ただよふ森に、

  逝きてかへらぬ

  夢の夜の調和(とゝのひ)を

  あこがれうるみ露吹く聲に

  姬はうたひぬ、驕樂の

  逝きてかへらぬ黃金(こがね)の世。

   (ああ我がいのち

    黃金の世。)

 

  葉を蒸す白晝(まひる)、

  百鳥(もゝとり)の生の謠(うた)

  あふれどよめく綠搖籃(みどりゆりご)の

  枝洩れて地に

  照りかへる强き日の

  夏をつかれて、かほる吐息に

  姬は悵(いた)みぬ、常安(とこやす)の

  凉影(すゞかげ)甘き詩(うた)の海。

   (ああ我がいのち

    詩の海。)

 

  山波遠く

  沈む日の終焉(をはり)の瞳(め)、

  今か沈みて、熖の白矢、

  涯なき涯を

  わかれ行く魂(たま)の如、

  うすれ融け行く地の黃昏に

  姬は祈りぬ、大天(おほあめ)の

  靈のいのちの夢の鄕(さと)。

   (ああ我がいのち

    夢の鄕。)

 

  ひと日、日すでに

  沈みゆき、乳香の

  夜(よる)の律調(しらべ)を戀ふ百合姬が

  待夜(まちよ)ののぞみ、

  その望み先づ破(や)れて、

  暗に楯どる嵐の征矢に

  姬はたをれぬ、殘る香の

  いと悵ましき夢の花。

  (ああ我がいのち

   夢の花。)

 

  水無月ふかき

  森かげの一つ百合、

  見えて見えざる世にあこがれし

  ああその夢の

  瞿粟花(けしばな)のにほひ羽(ばね)、

  あまりに高く淸らかなれば、

  姬は萎れぬ、夜嵐の

  妬みに折るる信の枝。

  (ああ我がいのち

   信の枝。)

 

  香柏(かうはく)の根に

  (幻や、げに)あはれ

  夢の名殘を葬むり去りて、

  去りて嵐の

  血寂びたる矢叫びは

  いづち行きけむ。──ただ其夜より

  姬は匂ひぬ靑玉(せいぎよく)の

  天壇い照る藝の燭。

  (ああ我がいのち

   藝の燭)

           (甲辰五月十一日夜)

[やぶちゃん注:第五連以降、各連末尾の丸括弧部分が上がっている(底本の「早稲田大学図書館古典籍総合データベース」の本初版本のこちらの「56」「57」「58」の画像を順に見られたい)のはママで、筑摩版全集でも同じ処理をしている。初出は明治三七(一九〇四)年六月号『太陽』であるが、初出では丸括弧位置は第一連と同じ字下げで示され、総てに於いて二行目は「ああ」の後の「あ」の半角上げ位置から始まっている。

 表記上の異同(読点の有無を含む。これは今まで同様に示さない)だけでなく、初出では有意な文字の異同が本篇では見受けられるので、以下の注では後者については「◎」で示す。特に注の必要を認めない連は飛ばした。

《第一連》

「靑綠(みどり)」この「みどり」は「靑綠」二字へのルビである。平安以前の日本の和歌に於ける青と緑の用法は、「あを」も「みどり」も青いもの・緑色のものの双方に用いていたことが研究で判明しており、詩語としての原日本人の色彩感覚では「青」と「緑」が共通のものとして捉えられていた。これは必ずしも日本のみの傾向ではなく、世界的なものであったようである。

「眠ま白き」「眠(ねむり)ま白(しろ)き」である。初出ルビもそうなっている。

最終行の丸括弧内の「夏の宮。」は初出では「聖(せい)の宮(みや)。」となっている。初出でも第二連以下は総ての最終行の丸括弧二行目が、それぞれから二行前の末尾の詩句と対応して同じ語句であるのに、ここだけが「眠(ねむり)眞白(ましろ)き夏(なつ)の宮(みや)」(初出表記)と対応していないのは不審ではある。しかし、「夏」と「聖」では活字の誤植のしようがない。

《第五連》

◎「靈のいのちの夢の鄕(さと)。」の「靈」には初出は「たま」とルビする。ここまでの詩篇内でも「れい」と「たま」が両用されているが、ルビ無しの場合「たま」よりも「れい」と音で読む可能性が高い。それを承知で外しているということは、「れい」で読んでよかろう。そう読まれて仕方がないという意味ででも、である。

《第六連》

◎「その望み先(ま)づ破(や)れて、」「破(や)れて」は、初出では「消(き)えて」となっている。

《第七連》

◎「あまりに高く淸らかなれば、」「淸らかなれば」は、初出では「淸(きよ)きの故(ゆゑ)に、」となっている。

◎「妬(ねた)みに折(を)るる信(しん)の枝。」は初出では、「妬(ねた)みに破(や)るる信(しん)の壺(つぼ)。」となっている。

◎前を受けて最終行の丸括弧内の「信の枝。」は初出では、「信(しん)の壺(つぼ)。」となっている。

《最終連》

「香柏(こうはく)」檜の別称。

「血寂(ちさ)びたる」これは「嵐の」「矢叫(やさけ)び」の感覚的換喩の形容詞ととらえられるので、読みを続けて示した。

「天壇(てんだん)い照る」の「い」は動詞を強調する接頭語。「天壇」は祭壇。

「藝」芸術。ミューズの霊感のようなものの換喩か。]

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