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2020/04/08

早川孝太郎「猪・鹿・狸」 狸 十三 娘に化けた狸

 

     十三 娘に化けた狸

 鳳來寺村門谷[やぶちゃん注:「かどや」。]の、高德(かうとく)の山に、杣が小屋を差して居た時の事だと謂ふ。その小屋には三人泊つて居たさうであるが、或晚一人が山を出て、門谷の馴染の女の許へ寄つて遊んで來た。すると其翌る晚三人が爐に向つて居ると、だしぬけに小屋の垂莚を上げて顏を出した者があつた。見ると若い女で、而も一人が前夜寄つて來た馴染の女だつた。ヘゝゝと笑つて居たさうである。どうも恠しい、これはてつきり狸の惡戯に違ひないと覺つて[やぶちゃん注:「さとつて」。]、それでも面白半分にからかつて見た。お前はどこだいと言ふと、俺(わし)や門谷の田町だと答へたさうである。田町の誰だいと言ふと、ヘゝゝと笑つて口を押へて居る。丁度その時皆んなして鳩を燒いて喰つて居たので、喰はんかいと言うて一串差出すと默つて受取つて喰つてしまつた。それなり娘は歸つて行つた。翌晚も同じやうにやつて來たさうである。三日目の晚に、小屋の入口ヘ鳩の肉を餌にして虎挾を仕掛けて置くと、翌朝一匹の古狸が掛つて死んで居た。それきり娘はもう來なんだ。後で其狸を煮て喰つたが、矢張りこはくて美味くなかつたと言ふ。

[やぶちゃん注:「鳳來寺村門谷の、高德(かうとく)の山」新城市門谷高徳(グーグル・マップ・データ)。鳳来寺参道を入ったところから北方向。国土地理院図の四百九メートルのピークか。同地区の北西に神社マークの南方境に「高徳不動」がある。

「こはくて」硬くて。]

 娘に化けた譯ではなかつたが、鳳來寺村長良(ながら)の村端れの谷に出た狸も、狩人の掛けた虎挾に掛つて、以來出なくなつた。それ迄は崖の上から砂を振りかけたり、石地藏に化けたりして、通る者を惱ましたと言うた。

[やぶちゃん注:「鳳來寺村長良(ながら)」現在の愛知県の旧南設楽郡鳳来町内。現在、新城市の一部となった。しかし、この字名を現在、確認出来ない。スタンフォード大学の明治二三(一八九〇)年測図・大正六(一九一七)年修正版「國土地理院圖」の「三河大野」を見ると、図の北西部の「鳳來村」の「追分」の北、海老川の寒狭川への合流点の南に「長樂(ナガラ)」を見出すことが出来、国土地理院図に「長楽」としてある。この附近だろうか? 先に出た北山御料林の北西に当たる。]

 狸が石地藏に化けた話は未だあつた。化けたと言ふよりも、使つたと言ふ方が適當だつた。出澤の村から谷下(やけ)へ越す山の途中に、村雀と言ふ神樣があつた。その傍に鉢冠り地藏と言ふがある。その地藏が時折化けて通る人を嚇した。矢張狸の仕業と専ら言うた。或月夜に村の開原某が通りかゝると、地藏がゲラゲラ笑ひ出したさうである。兼て覺悟をして居たので、、腰の刀を拔くや否や斬りつけて、其儘歸つてしまつた。翌朝行つて見ると、地藏が胴を眞二ツに斬られて居た。そのまゝ今に胴中から二ツになつて立つて居る。それ以來もう化けなくなつたさうである。

[やぶちゃん注:「出澤の村から谷下(やけ)へ越す山の途中に、村雀と言ふ神樣があつた」何度も出たが「出澤」は「すざは(すざわ)」と読む。現在の出沢地区の新城市出沢根岸谷下(ねぎしやげ)(改訂版でも「やけ」であるが、現在は濁音)。「村雀と言ふ神樣」は「早川孝太郎研究会」による「三州民話の里」本篇のPDFに写真が載り(本文の「谷下」は現在と同様に「やげ」と濁っている)、『出沢砦跡から、クボ⇒コデロを通って浅谷の谷下に行く途中、坂を登りきった辺りに古木があり、その根元に村雀様があります。鉢冠りの地蔵様は見当たりませんでしたが、村雀様のお祠も、刃物で斬られたように割れていました』。『古老に訊いたところ、斬られて二つになったお地蔵様は、昔は確かにあったが』、『今はどこにいったか判らないとのことでした』とあった。]

 別の話では、鉢冠り地藏は狸の仕業でなくて、地藏自身が化けるのだとも言うた。何れにしても、たしかに俺が化けたと名乘る譯でないから、遽に[やぶちゃん注:「にはかに」。]どつちとも決められない。

[やぶちゃん注:化け地蔵の伝承は存外、各地に多くある。]

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