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2020/04/05

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) ひとりゆかむ

 

[やぶちゃん注:ここ以降最後までは加工用データとして菊池眞一氏が嘗て電子化して公開しておられた(現在は残念ながら存在しない。菊池氏の現在のサイトはこちら)日本近代文学館昭和四九(一九七四)年刊の「特選 名著復刻全集 近代文学館」の復刻本の小田島書房版「あこがれ」初版本に基づく電子化データ(二〇〇四年二月ダウン・ロード。但し、漢字は新字で、ルビ(読み)がない)を使用させて戴いた。]

 

  ひ と り ゆ か む

 

日はくれぬ。

(愁(うれ)ひのいのち)

幻想(おもひ)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

萬有(ものみな)音をひそめて、

(ああ我がいのち)おもひでの

妙樂(めうがく)の夜(よる)あまき森。

 (夜のおもひ

   いのちのおもひ)

 

戀成りぬ。

(夢見のいのち)

忘我(われか)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

花瞿粟(はなげし)にほひゆるみて、

(ああ我がいのち)つく息(いき)の

みどりうす靄ゆらぐ森。

 (夜のにほひ

   戀のにほひ)

 

戀破れぬ。

(なげきのいのち)

祈(いの)りの森に、いざや

ひとり行かむ。

面影(おもかげ)、いのるまにまに

(ああ我がいのち)天(あめ)の生(せい)

あらたに馨(かほ)る愛の森。

 (夜のいのり

   いのちのいのり)

 

月照りぬ。

(あでなるいのち)

幻想(おもひ)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

ほのぼの、月の光に

(ああ我がいのち)故鄕(ふるさと)の

黃金(こがね)花岸(はなぎし)うかぶ森。

 (夜のいのち

   ああ我がいのち)

            (甲辰五月十七日)

 

   *

 

  ひ と り ゆ か む

 

日はくれぬ。

(愁ひのいのち)

幻想(おもひ)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

萬有(ものみな)音をひそめて、

(ああ我がいのち)おもひでの

妙樂の夜あまき森。

 (夜のおもひ

   いのちのおもひ)

 

戀成りぬ。

(夢見のいのち)

忘我(われか)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

花瞿粟にほひゆるみて、

(ああ我がいのち)つく息の

みどりうす靄ゆらぐ森。

 (夜のにほひ

   戀のにほひ)

 

戀破れぬ。

(なげきのいのち)

祈りの森に、いざや

ひとり行かむ。

面影、いのるまにまに

(ああ我がいのち)天(あめ)の生

あらたに馨る愛の森。

 (夜のいのり

   いのちのいのり)

 

月照りぬ。

(あでなるいのち)

幻想(おもひ)の森に、いざや

ひとりゆかむ。

ほのぼの、月の光に

(ああ我がいのち)故鄕(ふるさと)の

黃金(こがね)花岸(はなぎし)うかぶ森。

 (夜のいのち

   ああ我がいのち)

            (甲辰五月十七日)

[やぶちゃん注:最終連の六行目の、『(ああ我がいのち)故鄕(ふるさと)の』は底本では『(ああ我がいのち故鄕(ふるさと)の』となってしまっている。しかし、これはこれまでの三連に徴すまでもなく、丸括弧閉じる冒頭の丸括弧の終結が最後までないことになり、明らかに脱記号であることが納得される。筑摩版全集はその不全のままに示してあるが、それは矢張り読解に致命的な躓きを起こす以上、訂せられなければならないと考え、特異的にそれを挿入した。無論、以下の初出ではこの位置に丸括弧閉じるがある(厳密には『(ああ我が生命)』の表記で)。初出は明治三七(一九〇四)年六月号『明星』で、総表題「野歌三律」で、既に電子化した「しらべの海」の次に、本「ひとりゆかむ」、その後に「黄金幻境」を載せる。

「忘我(われか)の森」二字へのルビ。「我か人か」という古語「自分なのか他人なのか区別出来ないほどに心が乱れてぼんやりしている状態」に基づく幻想時空の「森」である。

「黃金(こがね)花岸(はなぎし)」具体な啄木の故郷の渋民の無何有(むかう)の幼少期の現実の中に結晶している水上川の川辺もダブらせてあろうが、「黄金(こがね)の岸(きし)」という一般名詞の、極楽浄土にあるという七宝の池の岸や一切の煩悩から解脱した涅槃の境地を本質的には指すようになっている。]

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