萩原朔太郎 氷島 初版本原拠版 附・初出形 地下鐵道(さぶうえい)にて
地下鐵道(さぶうえい)にて
ひとり來りて地下鐵道(さぶうえい)の
靑き步廊(ほうむ)をさまよひつ
君待ちかねて悲しめど
君が夢には無きものを
なに幻影(まぼろし)の後尾燈
空洞(うつろ)に暗きトンネルの
壁に映りて消え行けり。
壁に映りて過ぎ行けり。
「なに幻影(まぼろし)の後尾燈」
「なに幻影(まぼろし)の戀人を」
に通ず。掛ケ詞。
[やぶちゃん注:初出は本詩集。この詩は好きだが、その諧謔は正直、「臭い」、臭過ぎる。
なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第二巻の『草稿詩篇「氷島」』には、本篇の草稿として『地下鐵道(さぶうえい)にて』『(本篇原稿二種二枚)』として以下の一篇のみが載る。表記は総てママである。
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地下鐵道にて
ひとり來りて地下鐵(さぶうえい)の
靑き步廊(ほうむ)をさまよひつ
君待ちかねて悲しめど
君が夢には無きものを
何幻の後尾燈
空洞(うつろ)に暗きトンネルの
壁に映りて消え行けり
壁に映りて消え行けり。
*
後に、編者注があり、『本稿は詩集刊行後の『書窓』(第一卷第六號・昭和十年九月號)に自筆原稿として發表されたものであるが、詩集本文と異同があるので、ここに揭げた。』とある。詩集「氷島」は前年の昭和九(一九三四)年六月発行である。死後のことならまだしも、経緯としては変わり種だな。
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