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2020/05/25

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 炎の宮

 

   炎 の 宮

 

女(をみな)は熱(ねつ)にをかされて、

終焉(いまは)の床に叫ぶらく、──

『我は炎の宮を見き。

宮は、初めは生命の

綠にもゆる若き火の、

たちまちかはる生火渦(いくはうづ)、

赤龍(せきりゆう)をどる天塔(てんたふ)や。

見ませ今はた漸々(やうやう)に、

ああ我が夫(つま)よ、神々(かうがう)し

御燭(みあかし)に咲く黃の花と

もゆる炎の我が宮を。

やがては融(と)けて白光(びやくくわう)の

雲輪(うんりん)い照る日とならば、

君をつつみて地の上に

天(あめ)の新宮(にひみや)立ちぬべし。』

 

『見ませ、』と云ふに、『何處(いづこ)に、』と

問(と)へば、『此處(こゝ)よ、』と、眞白(ましろ)なる

腕(かひな)に抱く玉の胸。──

胸は、いまはの息深く、

愛の波、また死(し)の波の

寄せてはかへすときめきを

照らすは月の白き影。

           (甲辰十一月十八日)

 

[やぶちゃん注:初出は明治三七(一九〇四)年十二月号『白百合』。初出の有意な変異を認めない。

「い照る」の「い」は前に「い渡る」で注した意味を強めて語調を整える接頭語。]

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