萩原朔太郎 氷島 初版本原拠版 附・初出形 告別
告 別
汽車は出發せんと欲し
汽鑵(かま)に石炭は積まれたり。
いま遠き信號燈(しぐなる)と鐵路の向ふへ
汽車は國境を越え行かんとす。
人のいかなる愛着もて
かくも機關車の火力されたる
烈しき熱情をなだめ得んや。
驛路に見送る人々よ
悲しみの底に齒がみしつつ
告別の傷みに破る勿れ。
汽車は出發せんと欲して
すさまじく蒸氣を噴き出し
裂けたる如くに吠え叫び
汽笛を鳴らし吹き鳴らせり。
[やぶちゃん注:「向ふへ」はママ(初出も同じ)。
初出は昭和五(一九三〇)年二月号『ニヒル』(創刊号)。
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告別
汽車は出發せんと欲し
竃(かま)に石炭は積まれたり。
今遠きシグナルと鐵路の向ふへ
汽車は國境を越え行かんとす
人のいかなる愛着もて
かくも機關車の火力されたる
烈しき熱情をなだめ得んや。
驛路に見送る人々よ
悲しみの底に齒がみしつつ
告別の傷みに破る勿れ。
汽車は出發せんと欲して
すさまじく蒸氣を噴き出し
裂けたる如くに吠え叫び
汽笛を鳴らし吹き鳴らせり。
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