萩原朔太郎 氷島 初版本原拠版 附・初出形 家庭
家庭
古き家の中に座りて
互に默(もだ)しつつ語り合へり。
仇敵に非ず
債鬼に非ず
「見よ! われは汝の妻
死ぬるとも尙離れざるべし。」
眼(め)は意地惡しく 復讐に燃え 憎々しげに刺し貫ぬく。
古き家の中に座りて
脫るべき術(すべ)もあらじかし。
[やぶちゃん注:「債鬼」(さいき)は借金の返済を厳しく迫る人。情け容赦なく取り立てるさまを鬼に喩えて言う。
初出は昭和六(一九三一)年三月発行の『詩・現實』第四冊。
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家庭
古き家の中に座りて
互に默しつつ語り合へり。
仇敵に非ず
債鬼に非ず
「見よ! われは汝の妻
死ぬるとも尙離れざるべし。」
目は意地惡しく、復讐に燃え、憎々しげに刺し貫ぬく。
古き家の中に座りて
脫(のが)るべき術(すべ)もあらじかし。
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なお、筑摩版「萩原朔太郞全集」第二巻の『草稿詩篇「氷島」』には、本篇の草稿として『家庭』『(本篇原稿三種三枚)』として以下の二篇(丸印附き「家庭」と黒丸印附き「家庭」)が載る。表記は総てママである。
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○結婚
古き家の中に座りて、
互に□默しつつ語り合へり。[やぶちゃん注:判読不能の「□」はおかしい。底本では『〔□〕』となっているのだが、この〔 〕は編者が推定修正した字を入れる記号だからである。恐らくは〈□〉の誤りで、削除した一字が判読不能だったという意味の誤りと判断した。]
仇敵にあらず、
債鬼に非ず、
「見よ、われは汝の妻、
死ぬるとも尙離れざるべし」
古き家にの中に座りて
いづこに逃るべ脫るべき術(すべ)も非じかし。
●家庭
古き部屋の中に坐りて
互に獸しつつ語り合へり。
仇敵に非ず
債鬼に非ず
「見よ われは汝の妻
死ぬるとも尙離れざるべし。」
目は意地惡しく、復讐に燃え、憎々しげに剌しつらぬく。
古き家の中に坐りて
逃(のが)るべき術(すべ)もあらじかし。
何所に脫るべき術(すべ)もあらじかし。
*]
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