萩原朔太郎 氷島 初版本原拠版 附・初出形 家庭
家庭
古き家の中に座りて
互に默(もだ)しつつ語り合へり。
仇敵に非ず
債鬼に非ず
「見よ! われは汝の妻
死ぬるとも尙離れざるべし。」
眼(め)は意地惡しく 復讐に燃え 憎々しげに刺し貫ぬく。
古き家の中に座りて
脫るべき術(すべ)もあらじかし。
[やぶちゃん注:「債鬼」(さいき)は借金の返済を厳しく迫る人。情け容赦なく取り立てるさまを鬼に喩えて言う。
初出は昭和六(一九三一)年三月発行の『詩・現實』第四冊。
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家庭
古き家の中に座りて
互に默しつつ語り合へり。
仇敵に非ず
債鬼に非ず
「見よ! われは汝の妻
死ぬるとも尙離れざるべし。」
目は意地惡しく、復讐に燃え、憎々しげに刺し貫ぬく。
古き家の中に座りて
脫(のが)るべき術(すべ)もあらじかし。
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