北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) おたまじやくし
おたまじやくし
おたまじやくしがちろちろと、
粘(ねば)りついたり、もつれたり、
靑い針めく藻のなかに
黑く、かなしく、生(いき)いきと。
死んだ蛙が生(なま)じろく
仰向(あふむ)きて浮く水の上、
銀の光が一面(いちめん)に
鐘の「刹那(せつな)」の音のごとく。
おたまじやくしの泣き笑ひ
こゑも得立てね、ちろちろと、
けふも痛(いた)そに尾を彈(はぢ)く、
黑く、かなしく、生(いき)いきと。
おたまじやくしか、わがこころ。
[やぶちゃん注:最後の一行が一篇を鮮烈に生かしている。]
« 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 猫 | トップページ | 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 銀のやんま »