北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 道ゆき
道ゆき
鰡(ぼら)と黑鯛(ちんのいを)と、
黑鯛魚(ちんのいを)と、
鰡と、のうえ、
肥前山をば、やんさのほい、けさ越えた、ばいとこずいずい。
後家(ごけ)と、按摩(あんま)さんと、
按摩さんと、
後家と、のうえ、
蜜柑畑から、やんさのほい、昨夜逃げた、ばいとこずいずい。
[やぶちゃん注:ポイントの変形はママ。小文字(底本では右寄せであるが、ここでは上寄せ。底本ではもっとポイントが小さいが、読み難くなるので、これ以上は小さくしなかった)のそれは思うに、囃子言葉と思われる。サイト「d-score」の『作曲白秋民謡集「道ゆき」 北原白秋』には、『これは、ばいとこずいずいぶしである』。『前聯は柳河地方のそれをそのまゝ用ゐた』(昭和四(一九二九)年改造社刊「北原白秋民謠集」から)とあるのだが、「ばいとこずいずい」節なるものを調べ得なかった。従って「ばいとこずいずい」の意味するところも不詳である(囃子言葉とすると、意味も不明な可能性はある)。識者の御教授を乞う。
「鰡」ボラ目ボラ科ボラ属ボラ Mugil cephalus。
「黑鯛(ちんのいを)」スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii。異名は「ちぬ」がよく知られるが、九州の地方名で「ちん」と呼ばれ、「ちんのうお」という呼称も確認出来た。
「肥前山」肥前修験道の一拠点であった佐賀県多久市東多久町納所天山にある両子(ふたご)山(グーグル・マップ・データ)のことか。標高三六六メートル。柳川の北西二十五キロメートルほどの位置に当たるが、その間は有明海湾奥の平地であるから、柳川からは見えるものと思われる。]
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