北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 紺屋のおろく
紺屋のおろく
にくいあん畜生は紺屋(かうや)のおろく、
猫を擁(かか)えて夕日の濱を
知らぬ顏して、しやなしやなと。
にくいあん畜生は筑前しぼり、
華奢(きやしや)な指さき濃靑(こあを)に染めて、
金(きん)の指輪もちらちらと。
にくいあん畜生が薄情(はくじやう)な(め)眼つき、
黑の前掛(まへかけ)、毛繻子か、セルか、
博多帶しめ、からころと。
にくいあん畜生と、擁(かか)えた猫と、
赤い入日にふとつまされて
瀉(かた)に陷(はま)つて死ねばよい。ホンニ、ホンニ………
[やぶちゃん注:「筑前しぼり」「福岡市博物館」公式サイト内の松村利規氏に手になる「企画展示室3 筑前絞り・再発見」の解説(まさに本詩篇のこの第二連が引かれてある)や、「甘木歴史資料館」公式サイト内の解説シートの副館長遠藤啓介氏の手になる「甘木絞りの基礎知識①~その起源と発展について~」(PDF)及び「甘木絞りの基礎知識②~その起源と発展について」(PDF)の「4.筑前絞り(甘木絞りと博多絞り)」がよい。
「毛繻子」は「けしゆす(けしゅす)」或いは「けじゆす(けじゅす)」で、綿と毛の交じった織物の一種。綿糸を経糸(たていと)に、毛糸を緯糸(よこいと)にして織った綾織(あやお)りの織物。繻子(しゅす:縦横五本以上からなる密度の高い、光沢の強い織物で、本来は絹製。サテンのこと)のように滑らかで光沢があり、服の裏地などに使う。
「セル」「セル地」のこと(但し、「地」は当て字)。「セル」はオランダ語「serge」の略で、布地の「セルジ」のこと(「セル地」という発音の偶然から「セル」と短縮された)。梳毛糸(そもうし:ウールをくしけずって長い繊維にし、それを綺麗に平行にそろえた糸)を使った、和服用の薄手の毛織物。サージ。]
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