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2020/06/22

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 秘密

 

秘密

 

桑の果の赤きものかげより、午後(ひるすぎ)の水面(みのも)は光り

奇異(ふしぎ)なる新らしき生活(いとなみ)に蛙らはとんぼがへりす。

 

ねばれる蛇の卵見ゆ、かつは臭(にほひ)のくさければ

*ガメノシユブタケ顰(しが)めつつ毛根を水に顫はす。…………

 

かなたこなたに咲く花は水ヒアシンス、

その紫に蜻蛉(とんぼ)ゐてなにか凝視(みつ)むれ、一心に。

 

そのとき、われは桑の果の赤きかげより、

祭日(まつりび)の太鼓の囃子(はやし)厭はしく、わが外の世をば隙見(すきみ)しぬ。

 

かの銀箔(ぎんぱく)の歎(なげ)きこそ魔法つかひの吐息なれ、

皮膚の痛みにえも鳴かぬ蛙の、あはれ、宙がへり。

 

かかる日にこそわが父母を、かかる日にこそ、

眞實(まこと)ならずと來て告げむ、*OMIKAの婆に心おびゆる。

 1. Omika の婆。Omika と呼ぶ狂氣の老婆なり。
   つねにわが酒倉に來てこの酒倉はわがものぞ、
   この酒もわがものぞ、Tonka John 汝もわが
   ものぞ。汝の父母と懷かしむ彼やつらは全く
   赤の他人にてわれこそは汝が母ぞよとわれを
   見ては脅かしぬ。
 2. ガメノシユブタケ。水草の一種、方言

 

[やぶちゃん注:「蛙」北原白秋は今までの詩篇でも一貫してルビを附していないから、読みは「かへる」でよいと考える。

「ガメノシユブタケ」複数回既出にてオリジナルに既に考証した通り、次連に出る「水ヒアシンス」と同種で、単子葉植物綱ツユクサ目ミズアオイ科ホテイアオイ(布袋葵)属ホテイアオイ Eichhornia crassipes(英名:Water Hyacinth)の異名。あたかも違うに記されてあるが、水生植物ここでウィキの「ホテイアオイ」を引いて確認しておくと(下線太字は私が附した)、『湖沼や流れの緩やかな川などの水面に浮かんで生育する水草』で、『葉は水面から立ち上がる。葉そのものは丸っぽく、艶がある。変わった特徴は、葉柄が丸く膨らんで浮き袋の役目をしていることで、浮き袋の半ばまでが水の中にある。日本では、この浮き袋のような丸い形の葉柄を布袋(ほてい)の膨らんだ腹に見立てて「ホテイアオイ(布袋のような形をしているアオイ)」と呼ばれるようになった。茎はごく短く、葉はロゼット状につく。つまり、タンポポのような草が根元まで水に浸かっている形である。水中には根が伸びる。根はひげ根状のものがバラバラと水中に広がり、それぞれの根からはたくさんの根毛が出るので、試験管洗いのブラシのようである。これは重りとして機能して、浮袋状の葉柄など空隙に富んだ水上部とバランスを取って水面での姿勢を保っている』。『ただし、全体の形は生育状態によって相当に変わる。小さいうちは葉も短く、葉柄の浮き袋も球形っぽくなり、水面に接しているが、よく育つと浮き袋は楕円形になり、水面から』一〇センチメートルも『立ち上がる。さらに、多数が寄り集まったときは、葉柄は細長くなり、葉も楕円形になって立ち上がるようになる。水が浅いところで根が泥に着いた場合には、泥の中に根を深く下ろし、泥の中の肥料分をどんどん吸収してさらに背が高くなり、全体の背丈は最大で』一メートル五〇センチメートル『にもなる』。『こうなると』、『葉柄はもはや細長く伸びて浮袋状では無くなる。なお、この状態で水中に浮かせておくと、しばらくして葉柄は再び膨らむ』。『夏に花が咲く。花茎が葉の間から高く伸び、大きな花を数個』から『十数個つける。花は青紫で、花びらは六枚、上に向いた花びらが幅広く、真ん中に黄色の斑紋があり、周りを紫の模様が囲んでいる。花が咲き終わると花茎は曲がって先端を水中につっこむ形となり、果実は水中で成長する』とあり、白秋はこの繁茂する水面下の藻のような草体部と花を別々なものと詩的に分離し(意識的には腑に落ちる)、かく述べているのである。

「かの銀箔(ぎんぱく)の歎(なげ)き」太陽光が水面に反射して起こす照り返しのハレーションを言っていよう。

「ねばれる卵見ゆ、かつは臭(にほひ)のくさければ」個人的には、これは山地のみでなく平地や特に水辺を好むヤマカガシ(有鱗目ヘビ亜目ナミヘビ科ヤマカガシ属ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus)の卵と思われる。産卵は夏で六月~八月にかけて行われ、土中・石の下・落葉の下などに、一度で二~三〇個、平均すると一〇個前後の卵を産む。長さ三センチメートルほどの楕円形を成し、白いが、産み落とされた卵同士はくっついた塊りを形成する。相互にくっつくということは何らかの母体由来の体液によるものと思われるから、蛇体特有の腥さがあるものと考えられる(私はヤマカガシの卵は見たことがないので推測である)。なお、かなり知られるようになったが、本種は毒蛇で、そのマウスの半致死量は本邦最強の猛毒を持つ蛇である海産のヘビ亜目コブラ科セグロウミヘビ属セグロウミヘビ Pelamis platura次ぎ、本邦の陸産ヘビ類ではマムシ(ヘビ亜目クサリヘビ科マムシ亜科マムシ属ニホンマムシ Gloydius blomhoffii)やハブ(クサリヘビ科ハブ属ハブ Protobothrops flavoviridis)よりも実は強い猛毒を保持する。但し、毒牙が上顎の奥歯にあること、それ二ミリメートル以下と短いため、過去、ヒトの咬傷死亡例が極めて少なかったことから、長く無毒蛇とされてきたが、一九七四年に有毒種と認定された(一九七二年・一九八二年・一九八四年の三例の死亡例報告がある)。

OMIKAの婆」「お美加」「お美香」「お美佳」「お美嘉」などが想起されるが、幕末から明治初期にかけての民間の女名はカタカナ「ミカ」か、ひらがな「みか」が圧倒的に多い。……思い出すことがある。中学時代、富山県高岡市伏木の勝興寺の近くに住んでいた。その近くに知的障害を持った老女がいた。同級生らは彼女のことを「めどっちゃん」或いは「みどっちゃん」と呼んで馬鹿にしていた。怒ると、石を投げてきた(私はそれを離れて見ていた)。意味が判らなかった私が訊ねると「あの婆さんはあれで何と『みどり』って名前なんや」と返ってきた。彼女は私の家のすぐ近くの銭湯に来ては、営業時間が過ぎても湯につかっていて、仕方なしに番台の主人が十円を渡すと、にこにこして帰っていったそうだ。私の亡き母はよく彼女の背を洗ってやったが、それはそれは垢だらけだったそうだ……]

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