北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 水ヒアシンス
水ヒアシンス
月しろか、いな、さにあらじ。
薄ら日か、いな、さにあらじ。
あはれ、その仄(ほの)のにほひの
などもさはいまも身に泌む。
さなり、そは薄き香(か)のゆめ。
ほのかなる暮の汀(みぎは)を、
われはまた君が背(せ)に寢て、
なにうたひ、なにかかたりし。
そも知らね、なべてをさなく
忘られし日にはあれども、
われは知る、二人(ふたり)溺れて
ふと見し、水ヒアシンスの花。
[やぶちゃん注:「水ヒアシンス」序の「わが生ひたち」の「2」に「ウオタアヒヤシンス」、同じ「3」に「ガメノシユブタケ」と出る、単子葉植物綱ツユクサ目ミズアオイ科ホテイアオイ(布袋葵)属ホテイアオイ Eichhornia crassipes の英名(Water Hyacinth)の訳。花期は夏で、ウィキの「ホテイアオイ」によれば、『花茎が葉の間から高く伸び、大きな花を数個』から『十数個つける。花は青紫で、花びらは六枚、上に向いた花びらが幅広く、真ん中に黄色の斑紋があり、周りを紫の模様が囲んでいる』とある。]
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