北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 鷄頭
鷄頭
秋の日は赤く照らせり。
誰が墓ぞ。風の光に
鷄頭の黃なるがあまた
咲ける見てけふも野に立つ。
母ありき、髮のほつれに
日も照りき。み手にひかれて
かかる日に、かかる野末を、
泣き濡れて步みたりけむ。
ものゆかし、墓の鷄頭。
さきの世(よ)か、うつし世にてか、
かかる人ありしを見ずや、
われひとり淚ながれぬ。
[やぶちゃん注:ナデシコ目ヒユ(莧)科Amaranthaceaeケイトウ属ケイトウ Celosia argentea。ケイトウの花期は夏から秋にかけてで現在は多彩な園芸品種があるが、花穂の基調色は赤・黄である。属名の「セロシア」は「燃やした」の意のギリシャ語(ラテン文字転写「keleos」)に由来し、ケイトウの花が燃え盛る炎を彷彿とさせることが由来と考えられている。和名の漢字表記は、その形状がニワトリの鶏冠(とさか)に似ていることに由る。原産地はアジア・アフリカの熱帯地方と推定されており、本邦には奈良時代に中国を経由して渡来した。かつては「韓藍」(からあい)と呼ばれていた(ここは学名語源以外は概ねウィキの「ケイトウ」に拠った)。]
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