北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 小兒と娘
小兒と娘
小兒(こども)ごころのあやしさは
白い小猫の爪かいな。
晝はひねもす、乳酪(にゆうらく)の匙(さじ)にまみれて、飛び超えて、
卓子(てえぶる)の上、椅子の上、ちんからころりと騷げども、騷げども、
流石(さすが)、寢室(ねべや)に瓦斯の火のシンと鳴る夜は氣が滅入ろ…
いつか殺したいたいけな靑い小鳥の翅(はね)の音。
娘ごころのあやしさは
もうせんごけの花かいな。
いつもほのかに薄着(うすぎ)してしんぞいとしう見ゆれども、
晝が晝なか、大(たい)それた强(きつ)い魔藥(まやく)に他(ひと)こそ知らね、
赤い火のよな針のわな千々(ちぢ)に顫(ふる)えて蟲を捕(と)る、蟲を捕る。
なんぼなんでも殺生(せつしやう)な、夜(よる)は夜(よる)とてくらやみに。
[やぶちゃん注:「顫(ふる)えて」はママ。]
« 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 足くび / 挿入された司馬江漢銅版画のロケーション判明 | トップページ | 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 靑い小鳥 »