北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 斷章 五十六
五 十 六
色あかきデカメロンの
書(ふみ)に肱つき、
なにごとをか思ひわづらひたまふ。
わかうどの友よ、
美くしきかかる日の夕暮に、さは疎(うと)くたれこめてのみ、
なにごとをか思ひわづらひたまふ。
[やぶちゃん注:「デカメロン」イタリアの作家ジョバンニ・ボッカチオ(Giovanni Boccaccio 一三一三年~一三七五年)の代表作“Il Decamerone”(「十日物語」)。一三四八年から一三五三年頃に書かれたとされる。物語は、フィレンツェの三人の青年と七人の淑女とが、郊外の別荘にペストの難を逃れ、それぞれが一日一話を十日に亙って、順繰りに物語るという体裁をとり、全百話を収める。登場人物は王侯貴族から悪漢や貧者に至るまで総ての階層を含み、内容も滑稽なもの・好色なものから、悲劇的なものにまで及ぶ。人間性の真理を捉えるとともに十四世紀イタリア社会を活写し、ダンテの「神曲」に対して『人間喜劇』とも呼ばれ、ヨーロッパ散文小説の範となった(以上は「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)。]
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