北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 靑い鳥
靑い鳥
せんだんの葉越しに、
靑い鳥が鳴いた。
『たつた、ひとつ知つてるよ。』つて、
さもさもうれしさうに、かなしさうに。
日の光に顫へながら、
今日(けふ)も今日(けふ)も鳴いてゐる。
『棄兒(すてご)の棄兒の TONKA JOHN、
眞實(ほんと)のお母(つか)さんが、外(ほか)にある。』
註 わが幼き時の恐ろしき疑問のひとつは、わが母は
眞にわが母なりやといふにありき。ある人は汝は
池のなかより生れたりと云ひ、ある人は紅き果の
熟る木の枝に籠とともに下げられて泣きてゐたり
しなど眞しやかに語りきかしぬ。小さき頭腦のこ
れが爲めに少からず脅かされしこと今に忘れず。
[やぶちゃん注:註は底本では五行書きであるが、ブラウザの不具合を考え、六行で示した。
「せんだん」ムクロジ目センダン科センダン属センダン Melia azedarach。
本篇を以って「生の芽生」パートは終わっている。]
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