北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 燒栗のにほひ
燒栗のにほひ
玉乘の兒よ、戲奴(ヂヤウカア)よ、身振をかしき鈴振(りんふり)よ。
また、いはけなき曲馬の兒、
赤き上着(うはぎ)にとり澄ます銀笛吹きの童らよ。
げにげに汝(なれ)ら、しをらしく、あるはをかしく、おもしろく、
戯(たは)れ浮かれて鄙びたる下司(げす)のしらべに忘るれど、
いづこともなき燒栗の秋のにほひを嗅ぐときは
物思ふらむ嘆くらむ、かつは淚もしたたらむ。
すべり轉(ころ)がる玉の上に、暗き樂屋に、
汗臭(くさ)き馬の背に、道化芝居の花道に、
玉蜀黍(たうもろこし)を嚙みしむる、收穫(とりいれ)の日の
盲目(もうもく)のわかき女に見るごとく、
物の哀(あは)れをしみじみと思ひ知るらむ、淺艸の秋の匂に。
[やぶちゃん注:「鈴振(りんふり)」ジョーカーの下のクラウンやピエロのことであろう。
「銀笛」先行する短歌作品から恐らく「ぎんてき」である。とある白秋の短歌評釈では六穴金管縦笛と限定しているが、必ずしもそれに拘る必要は無かろう。]
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