北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 金縞の蜘蛛
金縞の蜘蛛
ゆく春のあるかなきかの糸に載り、
身を滑(すべ)らする金縞(きんじま)の蜘蛛(くも)。
雨ふれば濡れそぼち、
日のてれば光りかがやく金縞の蜘蛛。
その靑き金縞の蜘蛛。
怪しくも美くしき眼は
晝の年增(としま)の秘密をば見て見ぬふりにうち顫へ、
うら耻かしき少年の夢を見透かし、
明日(あす)死ぬるわが妹の命(いのち)をかひたと凝視(みつ)むる。
ゆく春のあるかなきかの絲に載り、
身を滑(すべ)らする金縞の蜘蛛。
人來(く)れば肢(あし)を縮(ちゞ)め、
蟲來(く)れば捕(と)りて血を吸ふ金縞の蜘蛛。
ただ一日(ひとひ)靑く光れる金縞の蜘蛛。
[やぶちゃん注:太字「ひた」は底本では傍点「ヽ」。
「金縞の蜘蛛」節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目クモ亜目クモ下目コガネグモ上科ジョロウグモ科ジョロウグモ属ジョロウグモ Nephila clavata ととってよかろう。可能性としての多種及びジョロウグモ類の博物誌は私の「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 絡新婦」を参照されたい。]
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