北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 男の顏
男の顏
ふと見てし男の顏は
夜目(よめ)ながら赤く笑ひき。
そことなく囃子(はやし)きこえて
水祭(みづまつり)ふけし夜(よ)のほど、
乳母の背(せ)にわれねむりつつ、
見るとなく彼を憎みぬ。
その顏は街(まち)の燈かげを、
あかあかと步みつつあり。
乳母もさは添ひてかたりぬ。
かくて世(よ)にわれただひとり。
大太鼓人(おほだいこ)は拊(う)ちつけ
後(うしろ)より絕えず戯(おど)けて
嘲りぬ。──われは泣きにき。
[やぶちゃん注:「水祭」序の「わが生ひたち」に既出既注。沖端水天宮の祭日。]
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