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2020/06/05

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 草苺

 

   草  苺

 

靑草(あをぐさ)かほる丘(をか)の下(した)、

小唄(こうた)ながらに君過(す)ぐる。

夏の日ざかり、野良(のら)がよひ、

駒(こま)の背(せ)にして君過ぐる。

君くると見てかくれける

丘の草間(くさま)の夏苺(なついちご)、

日照(ひで)りに蒸(む)れて、靑床(あをどこ)や、

草いきれする下かげに、

天(あめ)の日うけて情(なさけ)ばみ

色ばみ燃えし紅(あけ)の珠(たま)、──

鶉(うづら)の床の丘の邊に

もとより鄙(ひな)の草なれど、

ああ胸の火よ、紅(あけ)の珠(たま)、──

とどろぎ心(ごころ)ひざまづき、

手(て)觸(ふ)れて見れば、うま汁(しる)に

あへなく指(ゆび)の染(そ)みぬるよ。

素足(すあし)草刈(くさか)る身は十五、

夏草しげる中なれば、

心(むね)の苺(いちご)はかくれたれ、

くろ髮捲ける藍染(あゐぞめ)の

白木綿(しらゆふ)君に見えざるや。

過ぎし祭(まつり)の春の夜、

おぼろ夜深み、酒(さか)ほぎの

庭に、手とられ、袖とられ、

君に撰(ゑ)られて、はづかしの

唄(うた)に盃(さかづき)さされける

ああその夜より、姿よき、

駒(こま)もち、田もち、家もちの

君が名になど頰(ほ)の熱(ほて)る。

今君行くよ、丘の下、──

かがやく路を、若駒(わかごま)の

白毛(あしげ)ゆたかの乘樣(のりざま)や、──

聲し立てねば、えも向(む)かで

小唄(こうた)ながらに君行くよ。

ああ草蔭(くさかげ)の夏苺(なついちご)、

天(あめ)の日うけて情ばみ

色ばみ燃えて、日もすがら

くちびる甘(あま)き幸(さち)まてど、

醜草(しこくさ)なれば、君が園

枝(えだ)瑞々(みづみづ)し林檎(りうごう)の

櫑子(らいし)に盛(も)られ、手にとられ、

君がみ唇(くち)に吸(す)はるべき

木(こ)の實(み)の幸(さち)をうらみかねつも。

            (乙巳二月廿一日)

 

[やぶちゃん注:「草苺」「くさいちご」は「早稲苺(わせいちご)」とも呼ぶ、落葉小低木のバラ目バラ科バラ亜科 Rubeae 連キイチゴ属クサイチゴ Rubus hirsutus。昔は裏山の散策でよく食べたものだった。

「林檎(りうごう)」「りんごん」の「ん」を「う」と表記したもの。リンゴ。

「櫑子(らいし)」高坏(たかつき)に似た縁の高い器。酒や菓子などを盛った。

 初出は『時代思潮』明治三八(一九〇五)年四月号。有意な異同は認められない。]

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