北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 赤い木太刀
赤い木太刀
赤い木太刀をかつぎつつ、
JOHNはしくしく泣いてゆく。
水天宮のお祭(まつり)が
なぜにこんなにかなしかろ。
悲(かな)しいことはなけれども、
行儀ただしく、人なみに
御輿(みこし)のあとに從へば、
金(きん)の小鳥のヒラヒラが
なぜか、こころをそそのかす。
街(まち)は五月の入日どき、
覗(のぞ)き眼鏡(めがね)がとりどりに
店をひろぐるそのなかを、
赤い木太刀をかつぎつつ、
JOHNはしくしく泣いてゆく。
[やぶちゃん注:「木太刀」「きだち」。
「覗き眼鏡」「のぞきからくり」(「覗絡繰」「覗機関」)に同じ。江戸後期に発生した大道芸の一つ。大きな箱の中に物語に応じた絵を数枚納めて置き、箱の両側に立った二人が、物語に節をつけてうたいながら綱を引き、絵を順次転換させる装置。これを前方の穴或いは凸レンズ入り眼鏡から覗かせて料金をとった。]
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