北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 泪芙藍
過ぎし日
[やぶちゃん注:パート標題。]
泪芙藍
罅(ひゞ)入りし珈琲碗(カウヒわん)に
泪芙藍(さふらん)のくさを植ゑたり。
その花ひとつひらけば
あはれや呼吸(いき)のをののく。
昨日(きのふ)を憎むこころの陰影(かげ)にも、時に顫えて
ほのかにさくや、さふらん。
[やぶちゃん注:「顫えて」はママ。以下の後の詩集でも直していないので、明らかに白秋自身の思い込みによる誤用常習であることが判る。
「泪芙藍」既出既注(序に出た)であるが、誤字なので再掲する。正しくはサフラン(単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科クロッカス属サフラン Crocus sativ)の漢字表記は「洎芙藍」(借字で意味はない)でないとおかしい。植字工・校正係のミスとも思われるが、白秋自身の誤って認識していた可能性も否定は出来ない。「洎」の字は「注ぐ」の意ではあるが、通常和文で使用することはない漢字で、後の昭和三(一九二八)年アルス刊の北原白秋自身の編著になる自身の詩集集成の一つである「白秋詩集Ⅱ」でも「泊芙藍」で「泊」と誤っているからである。
「珈琲碗(カウヒわん)」「カウヒ」のルビはママ。確信犯。上記の「白秋詩集Ⅱ」でも同じである。]
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