北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 思
思
堀端(ほりばた)に無花果(いちじゆく)みのり、
その實いとあかくふくるる。
軟風(なよかぜ)の薄きこころは
腫物(はれもの)にさはるがごとく。
夏はまた啞(おふし)の水馬(すいま)、
水面(みづのも)にただ彈(はぢ)くのみ。
誰か來て、するどきナイフ
ぐざと實を突(つ)き刺せよかし。………
無花果は、ああ、わがゆめは、
今日(けふ)もなほ赤くふくるる。
[やぶちゃん注:標題は「おもひ」でよかろう。
「水馬」半翅(カメムシ)目異翅(カメムシ)亜目アメンボ下アメンボ上科アメンボ科 Gerridae のアメンボ類。本邦で代表的なタイプ種はアメンボ(ナミアメンボとも呼ぶ)Aquarius paludum であるものの、一般には知られていないが、アメンボ類は驚くほど種が多く、他にオオアメンボ Aquarius elongatus(体長一・九~二・七センチメートルで、日本最大種)・ヒメアメンボ Gerris latiabdominis・コセアカアメンボ Gerris gracilicornis・エサキアメンボ Limnoporus esakii などがよく見られる。博物誌は私の「和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 水馬(かつをむし)」を参照されたい。]
« 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 兄弟 | トップページ | 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 水銀の玉 »