「イゴイストは不可い。何もしないで生きてゐやうといふのは橫着な了簡だ。人は自分の有つてゐる才能を出來る丈働かせなくつちや噓だ」
『東京朝日新聞』大正3(1914)年6月12日(金曜日)掲載 夏目漱石作「心」「先生の遺書」第五十一回より。
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「イゴイストは不可(いけな)いね。何もしないで生きてゐやうといふのは橫着な了簡だからね。人は自分の有つてゐる才能を出來る丈働かせなくつちや噓だ」
私は兄に向つて、自分の使つてゐるイゴイストの言葉の意味が能く解るかと聞き返して遣りたかつた。
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学生の「私」の兄に言わせれば、私はもう八年前から純粋生粋致命的な「イゴイスト」になっているという訳である――
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