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2020/06/01

萩原朔太郎 氷島 初版本原拠版 附・初出形 虎

 

   

 

虎なり

曠茫として巨像の如く

百貨店上屋階の檻に眠れど

汝はもと機械に非ず

牙齒もて肉を食ひ裂くとも

いかんぞ人間の物理を知らむ。

見よ 穹窿に煤煙ながれ

工場區街の屋根屋根より

悲しき汽笛は響き渡る。

虎なり

虎なり

 

午後なり

廣告風船(ばるうむ)は高く揚りて

薄暮に迫る都會の空

高層建築の上に遠く座りて

汝は旗の如くに飢えたるかな。

沓として眺望すれば

街路を這ひ行く蛆虫ども

生きたる食餌を暗欝にせり。

 

虎なり

昇降機械(えれべえたあ)の往復する

東京市中繁華の屋根に

琥珀の斑(まだら)なる毛皮をきて

曠野の如くに寂しむもの。

虎なり!

ああすべて汝の殘像

虛空のむなしき全景たり。

      ――銀座松坂屋の屋上にて――

 

[やぶちゃん注:「飢え」はママ(初出も同じ)。「沓として」は萩原朔太郎の思い込み誤用(初出も同じ)。無論「杳として」が正しい。ここは「はるかに遠く」の意。

「百貨店上屋階の檻に眠れ」る「虎」『「Vol.41 松坂屋・屋上遊園の歴史|松坂屋史料室」』(原資料(パンフレット画像)はこちら)に『1925年(大正1451日に、銀座店は百貨店初の試みである動物園を屋上に開設し、虎やライオンで人気を集めた』とある。本篇の初出は以下に出すが、昭和八年である。

 巨匠萩原朔太郎には「虎」が似合う。……惨めな私には場違いなところに飼われていた見すぼらしい「猿」が相応しかった。……その意味は……そうさ、私の中山省三郎氏訳の「航海 イワン・ツルゲーネフ」の私の注を見られよ…………

 初出は昭和八(一九三三)年六月発行の『生理』「Ⅰ」である。

   *

 

   屋上の虎

 

虎なり

茫漠として巨像の如く

百貨店上屋階の檻に眠れど

汝はもと機械に非ず

牙齒もて肉を食ひ裂くとも

いかんぞ人間の物理を知らむ。

見よ 穹窿に煤煙ながれ

工場區街の屋根屋根より

悲しき汽笛は響き渡る。

虎なり

虎なり。

 

午後なり

廣告風船(ばるうむ)は高く揚りて

薄暮に迫る都會の空

高層建築の上に遠く座りて

汝は旗の如くに飢えたるかな。

沓として眺望すれば

街路を這ひ行く蛆虫ども

生きたる食餌を暗欝にせり。

 

虎なり

昇降機械(えれべえたあ)の往復する

東京市中繁華の屋根に

琥珀の斑(まだら)なる毛皮をきて

曠野の如くに寂しむもの。

虎なり

ああすべて汝の殘像

虛空のむなしき全景たり。

       ――銀座松屋の屋上にて――

   *

最後の添書の「坂」の脱落はママ。]

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