北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 見果てぬ夢
見果てぬ夢
過ぎし日のしづこころなき口笛は
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジプシイの晝のゆめにも顫ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁(かなしみ)は
こまやかに匂(にほひ)シヤボンの消ゆるごと
目のふちの靑き年增(としま)や泣かすらん。
過ぎし日のうつつなかりしためいきは
淡(うす)ら雪赤のマントにふるごとく、
おもひでの襟のびらうど身にぞ泌む。
吹き馴れし銀(ぎん)のソプラノ身にぞ沁む。
過ぎし日のその夜の、言はで過ぎにし片おもひ。
« 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 隣の屋根 | トップページ | 北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 高機 »