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2020/06/04

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) 傘のぬし

 

   傘 の ぬ し

 

柳(やなぎ)の門(かど)にただずめば、

胸の奧より擣(つ)くに似る

鐘がさそひし細雨(ほそあめ)に

ぬれて、淋(さび)しき秋の暮、

絹(きぬ)むらさきの深張(ふかばり)の

小傘(をがさ)を斜(はす)に、君は來ぬ。

もとより夢のさまよひの

心やさしき君なれば、

あゆみはゆるき駒下駄(こまげた)の、

その音に胸はきざまれて、

うつむきとづる眼には

仄(ほの)むらさきの靄(もや)わせぬ。

 

袖やふるると、をののぎの

もろ手を置ける胸の上、

言葉も落ちず、手もふれず、

步みはゆるき駒下駄の

その音に知れば、君過ぎぬ。

ああ人もなき村路(むらみち)に

かへり見もせぬ傘(かさ)の主(ぬし)、

心いためて見送れば、

むらさきの靄やうやうに

あせて、新月(にひづき)野にいづる

空のうるみも目に添ひつ、

柳の雫(しづく)ひややかに

冷えし我が頰に落ちにける。

            (乙巳一月十八日)

 

[やぶちゃん注:「ただずめば」はママ。「彳めば」であるから「たたずめば」が正しい。初出はちゃんとそうなっている(後掲)。

「わせぬ」は仮名遣の誤りがないとすれば、「和せぬ」であろうと考えたが、初出を見て、びっくりだ。「靄(もや)走せぬ」となっている。ここからフィード・バックすると、ここは「靄(もや)走(は)せぬ」で、「馳(は)せぬ」に同じく、それを「わせぬ」と誤って表記したものとしか思えない。非常に痛い致命的ミスである。

「をののぎ」は「慄(をのの)く・戰く」の連用形の名詞化であるが、最後の濁音は一般的とは言えない。ここも初出はちゃんとそうなっている。

 初出は『はがき新誌』明治三八(一九〇五)年三月号。以上の通り、表記ミスが余りにひど過ぎるので初出を示しておく。総ルビだが、読みは一部に留めた。

   *

 

   傘のぬし

 

柳の門にたたずめば、

胸の奧より擣くに似る

鐘がさそひし細雨に

ぬれて淋しき秋のくれ、

絹むらさきの深張(ふかばり)の

小傘(をがさ)を斜(はす)に、君は來ぬ。

もとより夢のさまよひの

心やさしき君なれば、

あゆみはゆるき駒下駄の、

その音(ね)に胸は刻まれて、

うつむきとづる眼(まなこ)には

仄むらさきの靄走(は)せぬ。

 

袖やふるると、をののきの

もろ手を置ける胸の上、

言葉も落ちず、手もふれず、

步みはゆるき駒下駄の

その音に知れば、君過ぎぬ。

ああ人もなき村路に

かへり見もせぬ傘のぬし。

心いためて見送れば、

むらさきの靄やうやうに

あせて、新月(にひづき)野(の)にいづる

空のうるみも目に添ひつ、

柳のしづく冷やかに

冷えし我が頰(ほ)に落ちにける。

 

   *]

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