北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) いさかひのあと
いさかひのあと
紅(あか)いシヤツ着てたたずめる
TONKA JOHN こそかなしけれ。
白鳳仙花(しろつまぐれ)のはなさける
夏の日なかにただひとり。
手にて觸(さは)ればそのたねは
莢(さや)をはぢきて飛び去りぬ。
毛蟲に針(ピン)をつき刺せば
靑い液(しる)出て地ににじむ。
源四郞爺は、目のうすき、
魚かついでゆき過ぎぬ、
彼(かれ)の禿げたる頭(あたま)より
われを笑へるものぞあれ。
憎(にく)き街(まち)かな、風の來て
合歡(カウカ)の木をば吹くときは、
さあれ、かなしく身をそそる。
君にそむきしわがこころ。
[やぶちゃん注:「白鳳仙花(しろつまぐれ)」「つまぐれ」は「爪紅(つまぐれ)」で紅い鳳仙花の花の異名であり、九州或いは熊本附近の方言異名である可能性が個人ブログ「tukusi34のブログ」の「つまぐれ(爪紅)ホウセンカの異名」で指摘されてある。フウロソウ目ツリフネソウ科ツリフネソウ属ホウセンカ Impatiens balsamina。ウィキの「ホウセンカ」によれば、『本来の花の色は赤だが、園芸品種の花には赤や白、ピンク、紫のものがあり、また、赤や紫と白の絞り咲きもある』とある。
「源四郞爺」不詳。
「合歡(カウカ)」ルビはママ。後発の諸本でもほぼ同じであるが、後の昭和三(一九二八)年アルス刊の北原白秋自身の編著になる自身の詩集集成の一つである「白秋詩集Ⅱ」の本篇(国立国会図書館デジタルコレクションの当該ページ画像)では『ガフカ』と濁っている。音読みならば「カフクワン」或いは「ガフクワン」であるが、或いは方言口語読みなのかも知れぬ。マメ目マメ科ネムノキ亜科ネムノキ属ネムノキ Albizia julibrissin。音読みは後者の「ガフクワン(ゴウカン)」が普通。私の最も偏愛する花である。]
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