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2020/06/02

三州奇談續編卷之四 蕭然たる湯氣

 

    蕭然たる湯氣

 既に評議一圖(いちず)に極まりて、各(おのおの)賴もしく思ひ、佐兵衛・次郞助等忠勇を奮ひ、次右衞門英雄の最期を遂げたる趣(おもむき)此時に輝かんと、村中に酒出ださせて.二椀を喫して

「今や々々」

と相侍つところへ、追け金澤表(おもて)へ聞え、檢使の面々及び町奉行職の人、喧嘩追懸者役等押續き見え來りけるに、先づ湯入の人々を、一人も返さず留め置きて證人に取り、吟味詮議に及ぶ所、彼の片岡佐兵衞・山上次郞助、種々に辯舌を以て一の檢使を欺くといへども、笠松おろし・一の瀨の風折々に吹きすさびて、そろそろ實事顯れ出づる。

 第二の檢使兩人の疵見屆け、

「何とも如ㇾ斯(かくのごとき)の深手を被りながら、宇太夫をとゞめの刀までに仕留めしこと合㸃行かず、是を見れば助手(たすけて)のありたる躰(てい)なり」

と、そろそろむづかしくなりかゝり、佐兵衞は待ちし褒美の詞(ことば)、返りて御不審の立つ媒(なかだち)となりて、いろいろ御吟味糺明の上、屋敷へ引取るといへども、終りの吟味には公事場表(くじばおもて)へ御呼出しにて、片岡佐兵衞・山下次郞助。板屋八兵衞・角力取の九郞右衞門・同長右衞門等、悉く籠舍仰付けられ事濟むなり。

 村中の者ども初めの口上と違(たが)ふたる所ども出來、色々御吟味の上何も存じ不ㇾ申(まうさず)、誰が切りしやらん見たる者も御座なくと、實(じつ)の詞(ことば)にあやまり入りしかば、漸々(やうやう)御免にて、昔の如く湯本に人宿仕るべきの旨仰渡さるゝなり。此騷(このさわぎ)に湯治の者ども悉く去りて又來らず。暫くは人なき里とぞ見えにける。

 只に笠松おろし・一の瀨の風いと淸(きよ)げに吹拂ひて、萬籟(ばんらい)寂々としづまりけり。只奥山隱(おくやまがくれ)の里の如く、人通(ひとがよ)ひだになき程に淨(きよ)らかなれば、「大山伏」・「小山伏」も爰に志(こころざし)を慰みてやありけん、此程は夜每に笠松のうへには囃子(はやし)の音聞え、一の瀨の川水には鼓(つづみ)琴(こと)の音ひゞきて誠に樂しげに、聞くも長閑(のどか)に吹渡りけり。二三夜も斯(かく)の如し。月あかき夜に出で見たりける人の語りしは、

「一の瀨の河原毛色何となく朦朧として、川氣の躰(てい)怪しく立ちて、月光に相映ずる所黃赤の氣を含み、河原毛とや是を云ふべし。又笠松の雪も戶室山(とむろやま)の禿山(はげやま)の影を帶びて、月光白氣(びやくき)に照らし、自(おのづか)ら土器の色の如し。河原毛・土器相通ずると覺ゆ。湯本の里、此地は皆長家(ちやうけ)に出づることなれば、爰も長家の由緣を含むにや。一の瀨の川風、笠松の山色(さんしよく)、ともに黃ばみ合ひて、黃色にこそ見ゆれ。彼(かの)河原毛の怪の餘意かとぞ思ふ。

 其後湯入りも少し宛(づつ)來り、川原・松山の變色を本(もと)の如くなりて見えける。

 かはらげのことは、狐怪馬怪によらず、別に異變を引く妙ありと見ゆ。

 幽冥の間、理察すべからず。

[やぶちゃん注:「戶室山」ここ(グーグル・マップ・データ)。湯涌温泉の約四キロ北。

 思うに、この事件、犯人が下級とはいえ、藩直々の藩士であり、殺された相手も人持組の前田内蔵助家となれば、史料に出ないのはおかしい(先の長家の小姓の起こした乱心事件さえ載っている)と思い、史料を探ったが、見当たらない(縦覧なので見落としているかも知れぬ)のは頗るおかしい。しかし、麦水が明確に名前さえ出しているということは、事実、あった事件と考えねば成り立たぬ。識者の御教授を乞うものである。

 なお、最後は結局、「三州奇談續編卷之三」に意識的に牽強付会しているのが、如何にも厭な感じである。]

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