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2020/06/05

石川啄木 詩集「あこがれ」(初版準拠版) めしひの少女

 

   めしひの少女

 

『日は照るや。』聲は靑空(あをぞら)

白鶴(しらつる)の遠きかが啼き、──

ひむがしの海をのぞめる

高殿(たかどの)の玉の階(きざはし)

白石(しらいし)の柱に凭(よ)りて、

かく問(と)ひぬ、盲目(めしひ)の少女(をとめ)。

答(こた)ふらく、白銀(しろがね)づくり

うつくしき兜(かぶと)をぬぎて

ひざまづく若(わか)き武夫(もののふ)、

『さなり。日は今浪はなれ、

あざやかの光の蜒(うね)り、

丘を越(こ)え、夏の野をこえ、

今君よ、君が恁(よ)ります

白石(しらいし)の圓(まろ)き柱の

上半(うへなか)ば、なびくみ髮(ぐし)の

あたりまで黃金(こがね)に照りぬ。

やがて、その玉のみ面(おも)に

かゞやきの夏のくちづけ、

又やがて、薔薇(ばら)の苑生(そのふ)の

石彫(いしぼり)の姿に似たる

み腰にか、い照り絡(から)みて、

あまりぬる黃金の波は

我が面(おも)に名殘(なごり)を寄せむ。』

手をあげて、めしひの少女、

圓柱(まろばしら)と撫(さす)りつつ、

さて云ひぬ、『げに、あたたかや。』

また云ひぬ、『海に帆(ほ)ありや。

大空(おほぞら)に雲の浮ぶや。』

武夫(もののふ)はと立ちあがり、

答ふらく、力(ちから)ある聲、

『ああさなり。 海に帆の影、──

いづれそも、遠く隔(へだ)てて、

君と我がなからひの如、

相思ふとつくに人(びと)の

文使(ふみづかひ)乘(の)する船なれ、

紅(くれなゐ)の帆をばあげたり。──

大空(おほぞら)に雲はうかばず、

今日(けふ)もまた、熱き一日(いちにち)。──

君とこそ薔薇(ばら)の下蔭(したかげ)

いと甘き風に醉(ゑ)ふべき

天地(あめつち)のの幸福者(さひはひもの)の

我にかも厚(あつ)き惠(めぐ)みや、

大日影(おほひかげ)かくも照るらし。』

少女(をとめ)云ふ、『ああさはあれど、

君はただ身ゆるこそ見め。

この胸の燃ゆる日輪(にちりん)、

いのちをも燒(や)きほろぼすと

ひた燃えに燃ゆる日輪、

み眼(め)あれば、見ゆるを見れば、

えこそ見め、この日輪(にちりん)を。』

武夫(もののふ)はいらへもせずに、

寄り添ひて强(つよ)き呟(つぶ)やき、

『君もまた、えこそ見め、我が

双眸(さうばう)の中にかくるる

たましひの、君にと燃ゆる

みち足(た)らふ日のかがやきを。』

かく云ひて、少女を抱き、

たましひをそのたましひに、

唇(くちびる)をその唇(くちびる)に、

(生死(いきしに)のこの醉心地(ゑひごゝち))

もえもゆる戀の口吻(くちづけ)。──

口吻(くちづけ)ぞ、ああげに二人(ふたり)、

この地(つち)に戀するものの、

胸ふかき見えぬ日輪(にちりん)

相見ては、心休むる

唯(たゞ)一(いち)の瞳(ひとみ)なりけれ。──

日はすでに高(たか)にのぼりて、

かき抱く二人、かゞやく

白銀(しろがね)の兜(かぶと)、はたまた、

白石(しらいし)の圓(まろ)き柱や、

また、白き玉の階(きざはし)、

おほまかに、なべての上に

黃金なす光さし添へ、

高殿(たかどの)も戀の高殿(たかどの)、

天地(あめつち)も戀の天地(あめつち)、

勝(か)ちほこる胸の歡喜(くわんき)は

光なす凱歌(かちどき)なれば、

丘をこえ、靑野をこえて、

ひむがしの海の上まで

まろらかに溢(あふ)れわたりぬ。

            (乙巳三月十八日)

 

[やぶちゃん注:「圓柱(まろばしら)と撫(さす)りつつ、」及び「武夫(もののふ)はと立ちあがり、」の太字は底本では傍点「ヽ」(初出では「ひた燃えに燃ゆる日輪」の「ひた」にもあるが、こちらにはない)。句点の後の字空けは見た目を再現した。

「かが啼き」「かかなく」の名詞形。「かかなく」(但し、清音)は「鳴(かかな)く」「嚇(かかな)く」で鳥などが荒々しく激しく鳴くの意の万葉以来の古語。

 初出は明治三八(一九〇五)年四月号『明星』。初出の同詩は「国文学研究資料館 電子資料館」の「近代書誌・近代画像データベース」のこちらからを読むことが出来る。有意な異同は認めない。]

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