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2020/06/16

北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 道ぐさ

 

道ぐさ

 

芝くさのにほひに

夏の日光り、

幼年のこころに

*Wasiwasi 啼く。

 

伴(つれ)にはぐれて

うつとりと、

雪駄ひきずる

眞晝どき。

 

汗ばみし手に

羽蟲きて、

赤き腹部(はら)すり、また、消ゆる、

藍色の眼(め)の美くしや。

 

つかず離(はな)れぬ

その恐怖(おそれ)、

たらたら坂を

またのぼる。

 

芝くさのにほひに

夏の日光り、

幼年のこころに

Wasiwasi 啼く。

  * 油蟬の方言。

 

[やぶちゃん注:「油蟬」セミ亜科アブラゼミ族アブラゼミ属アブラゼミ Graptopsaltria nigrofuscata。詳しくは、そうさ、私の『小泉八雲 蟬 (大谷正信訳) 全四章~その「二」』が、よろしかろう。……しかし乍ら、これはアブラゼミではないのではないか? 方言の「Wasiwasi」は「ワシワシ」で、これは「ワッシ・ワッシ」であり、こう音写する蟬はセミ亜科エゾゼミ族クマゼミ属クマゼミ Cryptotympana facialis の「本鳴き」にこそ相応しいからである。「いや! 柳川や九州ではアブラゼミの鳴き声をこう聴くのだ!」或いは「アブラゼミをワシワシと呼ぶのだ!」と言われると困るのだが、まず、アブラゼミの鳴き声は一般に「油で物を揚げるような鳴き声」に基づくともされるものの、その鳴き声は「ジィ……」或いは「ジジジジジ……」「ジリジリジリ……」であって抑揚がないから、「ワシワシ」とは到底オノマトペイアしない。さらに「平成29年度 私たちの科学研究 熊本県科学研究物展示会(第77回科学展)入賞作品集」PDF)を見てみよう。そこに優賞を獲得した当時の阿蘇市立一の宮小学校四年生の長尾優輝君の作品「あれ?!この鳴き声はだれ? ~ぼくのうちにくるセミパート4~」で、優輝君は鳴き声の特徴として、

クマゼミは①「本鳴き」を「ワシワシ」、②「鳴き前」を「ジュルジュル」、③「鳴き後」を「ジュジュジュー」

と音写しておられるのに対し、

アブラゼミは①を「ジー」、②を「ギヴッギヴッ」、③を「ヂィー」

と音写しておられるのだ。次に、福岡在住の駄田泉氏のブログ「旧聞SINCE2009」の「福岡のセミはミンミンと鳴かない」を見られよ。

   《引用開始》

 ところで、タイトルでも書いたセミの鳴き声の話である。以前、この話題で家族と話をしていて少し驚いたことがある。セミの鳴き声は「ミーンミーン」だと信じているのだ。私の知る限り、このように鳴くミンミンゼミは九州の平地にはいない。この鳴き声を九州で聞くことができるのは、山間部などごく限られた地域だ。九州生まれ九州育ちの彼女が、ミンミンゼミの鳴き声を聞いて育ったわけがないのだ。

 しかし、東京で制作されたテレビ番組の中では、当然ながらこの地に生息しているミンミンゼミが鳴いている。実生活の中でセミへの関心がまったくなかったので、テレビから聞こえてくる鳴き声の方が刷り込まれてしまったのだろう。彼女だけの話かと思ったが、念のため、身の回りの九州人に同じような質問をしたら、やはり「ミーンミーン」と答えた人が少なからずいた。結構興味深い話ではないかと思う。

 では、九州のセミは何と鳴くのか? 近年、生息しているのは圧倒的にクマゼミが多く、鳴き声は昆虫図鑑などでは「シュワッシュワッ」などと表現されている。ただし、福岡では「ワシワシ」と聞こえる人が多く、中高年世代の間ではセミ自体もワシワシの名前で呼ばれている。透明な羽根を持った巨大なセミで、鳴き声も大音量。私の子供時代は生息数が少なく、かなり貴重な存在だった。

 おぼろげな記憶だが、梅雨が明けると、まず小型のニイニイゼミが頼りない声で鳴き出し、続いて比較的大型で全身茶色のアブラゼミが登場。ほぼ同時期、クマゼミが限られた木に現れる。最後にツクツクボウシが物寂しげな鳴き声で「夏休み」の終わりを告げ、子供たちを絶望的な気分にさせるという流れだった。ところが、現在はクマゼミがいきなり「ワシワシ」騒ぎだし、ニイニイゼミの声を聞くことはほとんどなくなった。クマゼミが都市化に適応して生息域を広げたという話を聞いたこともあるが、実際のところはどうなのだろう。

 セミ捕り少年など滅多に見ない世の中だ。昔は悪ガキを警戒して高い木にしかいなかったクマゼミたちだが、今では低い木に鈴なりなっていたりする。すっかり安心しているのだろう。

   《引用終了》

ここで駄田泉氏の仰るように、近年の都市化に適応してクマゼミは棲息域と個体数を増やしたのであるかも知れない(それはウィキの「クマゼミ」にも書かれてある)。だから、「明治二十年代から三十年代前半(一八八七年(白秋満二歳)から一九〇二年頃)にはクマゼミは殆んど柳川辺りにはおらんかったんや!」と立証出来るというのなら、私は退場するが、『福岡では「ワシワシ」と聞こえる人が多く、中高年世代の間ではセミ自体もワシワシの名前で呼ばれている』と書かれたそれは、私の方にやや分がある。「蟬自体の総称だ!」という逃げはだめだ。だったら、わざわざ白秋は「油蟬」とは記さないだろうという私の反論を完封は出来ぬからだ。ただ、気になったことは別に一つはある。それは「和漢三才図会」の「虫類」のセミ類の記載には「油蟬」の記載がないからである。今日、実はそれに気づいて、少し「和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蚱蟬(むまぜみ)」(馬蟬。私はそこでこれをクマゼミに比定同定した)に追記をしたのであるが、どうも「油蟬」(アブラゼミ)と「熊蟬」(クマゼミ)は江戸時代中期頃には混同されていた可能性が高いようで、それがずっと尾を引いて民間では一緒くた(鳴き声も姿もちゃんと観察すれば全然違うんだが)にされ続け、明治期のその頃までは同じ種のように呼び慣わされていた可能性はある。だとしても、音韻に脅威の敏感さを持つ北原白秋にして聴き違える可能性はないと私は思うのだ。ここで少年の白秋が聴いているのは確かに正真正銘「ワシワシ」と鳴く、真正のクマゼミである、としたいのである。大方の御叱正を俟つ。

【2020年6月17日:追記】いつも情報をお寄せ下さるT氏より以下のメールを頂戴した。

   《引用開始》

「クマゼミ」で、正解と思います。

・追加の補足情報

①第二連に「眞晝どき」と時間帯が書かれています。
ウィキペディアの「アブラゼミ」に『オスがよく鳴くのは午後の日が傾いてきた時間帯から日没後の薄明までの時間帯である』とある通り、小生の思い出でも、「アブラゼミ」は真昼(一時過ぎ)の蝉取りでは啼かないので、探しにくく、捕まえようとすると、「一声啼いて」飛んで居なくなります。「アブラゼミ」 は早朝(9時頃まで)の印象です。

②江戸後期の小野蘭山の「重修本草綱目啓蒙」(「本草綱目啓蒙」でも同じ)より。

蚱蟬 「アカゼミ」「クロゼミ」(江戸)【中略】「ユウゼミ」(筑前)【中略】
蚱蟬ハ大ニシテ翅ノ色黄赤クスキトホラズ八月ニ至リ未ノ刻以後多ク鳴【中略】 故ニ「啞蟬」ト云俗名「ナハセミ」(「和名鈔」)「オシゴロウ」(備前)「イゝシゼミ(筑後方言「啞」ヲ「イゝシ」ト云)【中略】
馬蜩ハ「ムマセミ」(「和名鈔」)「クマゼミ」(京)【中略】「 ワシワシゼミ」(筑後)【中略】形「アカゼミ」ヨリ大ニシテ身黒ク羽スキトホリテ綠脈(スチ)アリ鳴聲モ大ナリ 「アカセミ」ヨリ微シ[やぶちゃん注:「すこし」。]後レテ出【後略】

(国立国会図書館デジタルコレクションの「重訂本草綱目啓蒙」こちらから)とあり、 本草家も 「アカセミ」 は 「眞晝どき」には啼かないと、認識しています。

   《引用終了》
Tさん、ありがとう御座います!]

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