北原白秋 抒情小曲集 おもひで (初版原拠版) 氣まぐれ
氣まぐれ
逢ひに來た*ちの
日の照り雨のふるなかを、
*Odan mo iya, Tinco Sa!
しやりむり別れたそのあとで、
未練(みれん)な牡丹がまたひらく。
Odan mo iya, Tinco Sa!
1、ちのは雅言のとやなり。來たの、來たん
ですつて。柳河語。
2、Odan はわたしなり、Tincosa は感嘆詞なり、
全體の意味はあら厭だよ、まあ。同上。
[やぶちゃん注:注記号は底本では前者が「ち」の右側上方に、後者が「O」の右上方に打たれてある。太字「ちの」と「とや」は底本では傍点「ヽ」。注は全三行であるが、ブラウザでの不具合を考え、四行で示した。
「Odan はわたしなり」山口県長門の方言で「私」の意が確認出来る。
「Tincosa は感嘆詞」確認出来ない。
「Odan mo iya, Tinco Sa!」は恐らく、「おら、もう、厭(い)や! 全くもう!」とか「あたい、もう、厭やや! あんれ、まあ!」といった謂いか。但し、拒絶ではなく、実は内心は嬉しがっての対位表現ということであろう。
「しやりむり」源田仮名遣「しゃりむり」で、副詞。「いやでも応でも。是が非でも。何が何でも。むりやり。しゃにむに」の意。方言ではない。
「ちのは雅言のとやなり」古語「とや」は格助詞「と」+疑問の係助詞「や」で、「と」の受ける内容が疑わしいか、不確かであることを含む万葉以来の古語。「ちの」は確認出来ない。]
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