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2020/07/30

大和本草卷之十三 魚之下 鱸魚(スズキ)

 

鱸魚 大ナル者二三尺三月以後七月マテ肥ユ暑月

多ク乄味ヨシ八月ヨリヤスル夏秋サシミ鱠トシ鮓ト

ス夏月膓ノ味ヨシクモワタト云膓アリ脂多ク味ヨシ

病人忌之小ナルヲセイコト云松江ナルヘシ中華松江

ノ鱸ハ其大サ日本ノセイコノ如シト云中華ノ鱸ハ

小ナリ本草ニノスル處長僅ニ數寸トアリ○河鱸味尤

ヨシ暑月ノ佳品ナリ出雲ノ松江ノ湖ノ鱸味最スク

レタリ海ト河トノ間ニアルモ味ヨシ漁人釣之或戈ニテ

ツキテトル○鰷魚ヲセイコト訓ズルハ非ナリ鰷魚ハアユ

也セイコハ小鱸也

○やぶちゃんの書き下し文

鱸魚(すずき) 大なる者、二、三尺。三月以後、七月まで肥ゆ。暑月、多くして、味、よし。八月より、やする。夏・秋、さしみ・鱠〔(なます)〕とし、鮓〔(すし)〕とす。夏月、膓〔(わた)〕の味、よし。「くもわた」と云ふ膓あり、脂、多く、味、よし。病人、之を忌む。小なるを「せいご」と云ふ。「松江(せうがう)」なるべし。中華の松江の鱸は其の大いさ、日本の「せいご」のごとしと云ふ。中華の鱸は、小なり。「本草」にのする處、『長さ僅かに數寸』とあり。

○河鱸〔(かはすずき)は〕、味、尤もよし。暑月の佳品なり。出雲の松江(まつえ)の湖の鱸、味、最もすぐれたり。海と河との間にあるも、味、よし。漁人、之れを釣り、或いは戈(ほこ)にて、つきて、とる。

○鰷魚〔(はや)〕を「せいご」と訓ずるは非なり。鰷魚は「あゆ」なり。「せいご」は小〔さき〕鱸なり。

[やぶちゃん注:先行する「大和本草卷之十三 魚之上 河鱸 (スズキ)」と甚だ重複する記載が多いが、煩を厭わず、注も再掲する。条鰭綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目スズキ科スズキ属スズキ Lateolabrax japonicus である。多くの海水魚が分類学上、スズキ目 Perciformes に属することから、スズキを海水魚と思っている方が多いが、彼らは海水域も純淡水域も全く自由に回遊するので、スズキは淡水魚であると言った方がよりよいと私は考えている(海水魚とする記載も多く見かけるが、では、同じくライフ・サイクルに於いて海に下って稚魚が海水・汽水域で生まれて川に戻る種群を海水魚とは言わないし、海水魚図鑑にも載らないウナギ・アユ・サケ(サケが成魚として甚だしく大きくなるのは総て海でであり、後に産卵のために母川回帰する)を考えれば、この謂いはやはりおかしいことが判る。但し、生物学的に産卵と発生が純淡水ではなく、海水・汽水で行われる魚類を淡水魚とする考え方も根強いため、誤りとは言えない。というより、淡水魚・海水魚という分類は既に古典的分類学に属するもので、将来的には何か別な分類呼称を用意すべきであるように私には思われる)ウィキの「スズキ」によれば、『冬から春に湾奥(干潟、アマモ場、ガラモ場、砂浜海岸)や河口付近、河川内の各浅所で仔稚魚が見られ』、『一部は体長』二センチメートル『ほどの仔稚魚期から』、『純淡水域まで遡上する』。『この際、遡上前の成長がより悪い個体ほど』。『河川に遡上する傾向がある』。『仔稚魚は遊泳力が非常に弱いため、潮汐の大きな有明海では上げ潮を利用して』、『潮汐の非常に小さい日本海では塩水遡上を利用して河川を遡上する』。『若狭湾で、耳石の微量元素を指標にして調べた結果によれば』、『純淡水域を利用する個体の割合は』三『割強に上る』。『仔稚魚はカイアシ類や枝角類などの小型の生物から、アミ類、端脚類などの比較的大型の生物へとを主食を変化させながら成長』し、『夏になると』、『河川に遡上した個体の一部が』、五センチメートル『ほどになり』、『海に下る』。ところが、特に春から秋にかけての水温の高い時期には、本種の浸透圧調整機能も高いことから、成魚期以降でもかなりの個体が河川の純淡水域の思いがけない上流域まで遡上する(益軒が「夏・秋」を食味の最上期と叙述するのと合致する)。堰の無かった昔は、琵琶湖まで遡上する個体もいたとされるのである。但し、種としてのスズキは、冬には沿岸及び湾口部・河口などの外洋水の影響を受ける水域で産卵や越冬を行ない、また純淡水域のみでは繁殖は出来ない。則ち、少なくともライフ・サイクルの産卵・発生・出生期には絶対に海水・汽水域が必要なのである私自身、例えば、横浜市の戸塚駅直近の柏尾川(途中で境川に合流し、江の島の北手前で相模湾にそそぐ。河口からは実測で十四キロメートル以上はある)で四十センチメートルを優に超える大きな成魚の数十尾以上の群れが遡上するのを何度も目撃している。以下に以上の生態上の事実を真面目に判り易く述べても、スズキを純粋に海の魚に決まってると思っている人はなかなか信じて呉れず(こういう頑なな人は存外、多い。困るのは魚通を自認している人ほどその傾向が強いことである)、私の作った都市伝説だと思われる始末で、ほとほと困るのだが。なお、スズキは出世魚としても知られ、地方によってサイズと呼称が異なる。

セイゴ(コッパ)→フッコ→スズキ→オオタロウ(ニュウドウ)

セイゴ→ハネ→スズキ(関西)

セイゴ→マダカ →ナナイチ→スズキ(東海)

ハクラコ→ハクラ→ハネ→スズキ(佐賀)

などである。こうした異名の詳細は「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「スズキ」のページの最後の「地方名・市場名」が詳しいので参照されたい。

「八月より、やする」「八月」は陰暦なので注意。新暦では八月下旬から十月上旬となる。「やする」は「瘦する」。痩せ始める。但し、この謂いには疑問がある。実際にスズキが痩せるのは産卵後の春であって、秋以降ではない。確かに、脂が乗る梅雨時から夏にかけてが旬とされるものの、秋から初冬にかけて、産卵のために海から遡上してくる♀は腹が太く(子持ちで脂もそのために乗っているのだから、当然)、寧ろ肥えて見える個体も多いからである。なお、「スズキは性転換を行い、スズキは、五十センチメートルまでがで、それ以上になるとに性転換する」と言う説が古くから信じられ、今もそう思っている釣り人や業者がいるが、これは都市伝説並みの誤りである。釣りサイト「fimo」の「スズキの性転換」で水産研究者による『スズキの雄雌の『標準体長』組成を調べたデータ』(しかも一九六〇年代の研究資料である)も掲げられて、否定されている。

「鮓〔(すし)〕」熟れ鮓。ちょっと今は食わないな。でも、美味そうだ(私は「鮒鮓」が大の好物である)。

「膓〔(わた)〕」『「くもわた」と云ふ膓あり』私の知るところでは、「くもわた」は鱈(タラ目タラ科タラ亜科マダラ属マダラ Gadus macrocephalus)の白子の異名である。調べてみると、スズキの白子は相当に(タラ以上という評価もある)美味いらしい。私は個人的にあまり白子自体が好きではない(妻は絶対禁忌食物である)から、タラとアンコウ以外のそれは食べたことはない。「鮟肝」は例外的に絶品。禁断のトラフグの肝も、とあるところで食べたことがあるが、鮟肝の方が遙かに美味である。

「松江(せうがう)」「中華の松江」現在の上海市松江区であろう。東の黄海から黄浦江が入り込み、その上流は広大な太湖へと繋がっている。藤井統之氏の論文「松江と鱸」(平成二四(二〇一二)年・PDF)が、当地と出雲の松江を語られ、「大和本草」の本記載も掲げて、考証されておられる。必見である。

『「本草」にのする處、『長さ僅かに數寸』とあり』「本草綱目」の「鱗之二」のそれは以下。

   *

鱸魚【宋・嘉定。】

釋名 四鰓魚。時珍曰、『黒色曰盧。此魚白質黒章、故名。淞人名四鰓魚。』。

集解 時珍曰、『鱸出吳中、淞江尤盛、四五月方出。長僅數寸、狀微似鱖而色白、有黑㸃、巨口細鱗、有四鰓。楊誠齋詩頗盡其狀、云、『鱸出鱸鄕蘆葉前 垂虹亭下不論錢 買來玉尺如何短 鑄出銀梭直是圓 白質黑章三四㸃 細鱗巨口一雙鮮 春風已有真風味 想得秋風更逈然』。「南郡記」云、『吳人獻淞江鱸鱠於隋煬帝。帝曰、「金虀玉鱠、東南佳味也」。』。

肉 氣味 甘、平、有小毒。宗奭曰、『雖有小毒、不甚發病。』。禹錫曰、『多食、發痃癖瘡腫、不可同乳酪食。』。李廷飛云、『肝不可食剝人面皮。』。詵曰、『中鱸魚毒者、蘆根汁解之。』。

主治 補五臟、益筋骨、和腸胃、治水氣、多食宜人、作鮓尤良。曝乾甚香美【「嘉定」。】。益肝腎【宗奭。】安胎補中。作鱠尤佳【孟詵。】。

   *

先の論文で藤井氏は、『現代版本草の『中薬大辞典(1986)』には、≪李時珍は鱸が松江の四鰓魚(杜父魚科松江鱸魚 Trachidermus fasciatus Heckel)だと見做しているが』、『その根拠とした“状は鱸魚にやや似て色白、黒点あり、巨口細鱗”等の特質は、まさに鮨科の鱸魚で、松江鱸魚ではない。≫とある。鮨はヒレか魚名のハタ。鮨科は Serranidae で、英和辞書ではスズキとあるが』、『専門用語としてはハタ科となる。杜父魚科はカジカ科。中国語Wikipedia『維基百科』には≪松江鱸 Trachidermus fasciatus(ヤマノカミ、山の神(両者とも原文)) ≫とある。松江鱸=山の神であるが、中国が鱸形(スズキ)目 Perciformes であるのに対して』、『日本ではカサゴ目 Scorpaeniformes。松江鱸は明人が混同し』、「本草綱目」は『今もこれだから、益軒が戸惑うのも無理はない。益軒は筑前生まれの福岡藩士である。絶滅危惧種とされる山の神が』、『今』、『唯一棲む有明海に筑後川が流れ込む。筑後川上流の別称上座川に、川鱸これありと自著『筑前国続風土記』に載る。別項に杜父魚はハゼに似るという記述もある。山の神も見たに違いないが、目に山の神=松江鱸の図式なく看過したようだ。松江命名者の見え方も益軒と同じであろう。ところでスズキ目の科レベルの多様化はジュラ紀と白亜紀との境界付近で起きたらしいから、鱸と松江鱸が分岐したのがその頃か、また』、『山の神がカサゴ目なら恐竜時代か』と驚くべき時間をドライヴされて論じておられ、面白い。

「河鱸〔(かはすずき)〕」「海鱸〔(うみすずき)〕と形狀同じ」当然です。同種ですから。益軒は同じ類の別種として見ていたようだが、上記のように現代人の多くが、「海の魚」と信じて疑わない事実に照らせば、遙かに益軒先生の方が「まとも」と言える。但し、条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目スズキ上科 Percoidea に属する、広義の「スズキ」の仲間で、海産のメバルによく似ている(事実、姿は海水魚にしか見えない)、
スズキ上科ペルキクティス科 Percichthyidae オヤニラミ属オヤニラミ Coreoperca kawamebari
がいるから、「河鱸」ってえのはそれじゃないの? と言われる御仁もあろうが、そういうツッコミをされる方に限って私の過去記事を読んでくれていない。残念ながら、益軒先生は「オヤニラミ」を、とうに、本巻の別項で既に記載し終えているのである。「大和本草卷之十三 魚之上 水くり(オヤニラミ)」を参照されたい。――と「大和本草卷之十三 魚之上 河鱸 (スズキ)」と注したのだったが、前の藤井氏の引用からは、条鰭綱スズキ目カジカ科ヤマノカミ属ヤマノカミ Trachidermus fasciatus を正体の最有力候補とする(或いは加える)必要が出てきた。

「戈(ほこ)」突き銛や「やす」(簎・矠)の類い。

「鰷魚〔(はや)〕」『鰷魚は「あゆ」なり』この限定は誤り。「ハヤ」類「ハエ」「ハヨ」とも呼ぶ)で、これは概ね、

コイ科ウグイ亜科ウグイ属ウグイ Pseudaspius hakonensis

ウグイ亜科アブラハヤ属アムールミノー亜種アブラハヤ Rhynchocypris logowskii steindachneri

アブラハヤ属チャイニーズミノー亜種タカハヤ Rhynchocypris oxycephalus jouyi

コイ科Oxygastrinae 亜科ハス属オイカワ Opsariichthys platypus

Oxygastrinae 亜科カワムツ属ヌマムツ Nipponocypris sieboldii

Oxygastrinae 亜科カワムツ属カワムツ Nipponocypris temminckii

の六種を指す総称と考えてよい。漢字では「鮠」「鯈」「芳養」と書き、要は日本産のコイ科 Cyprinidae の淡水魚の中で、中型のもので細長いスマートな体型を有する種群の、釣り用語や各地での方言呼称として用いられる総称名であって、「ハヤ」という種は存在しない。以上の六種の内、ウグイ・オイカワ・ヌマムツ・アブラハヤの四種の画像はウィキの「ハヤ」で見ることができる。タカハヤカワムツはそれぞれのウィキ(リンク先)で見られたい。但し、益軒は既に鰷魚は鮎(キュウリウオ目キュウリウオ亜目キュウリウオ上科キュウリウオ科アユ亜科アユ属アユ Plecoglossus altivelis)だと何度もしつこく言っていて、処置なしである。]

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