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2020/07/28

今日、あのKの「覺悟?……!……覺悟なら……ないこともない……」という決定的な台詞が発せられてしまう――

 「私はKと並んで足を運ばせながら、彼の口を出る次の言葉を腹の中で暗に待ち受けました或は待ち伏せと云つた方がまだ適當かも知れません。其時の私はたとひKを騙し打ちにしても構はない位(くらゐ)に思つてゐたのです。然し私にも敎育相當の良心はありますから、もし誰か私の傍へ來て、御前は卑怯だと一言私語(さゝや)いて吳れるものがあつたなら、私は其瞬間に、はつと我に立ち歸つたかも知れません。もしKが其人であつたなら、私は恐らく彼の前に赤面したでせう。たゞKは私を窘(たしな)めるには餘りに正直でした。餘りに單純でした。餘りに人格が善良だつたのです。目のくらんだ私は、其處に敬意を拂ふ事を忘れて、却て其處に付け込んだのです。其處を利用して彼を打ち倒さうとしたのです。

 Kはしばらくして、私の名を呼んで私の方を見ました。今度は私の方で自然と足を留めました。するとKも留まりました。私は其時やつとKの眼を眞向に見る事が出來たのです。Kは私より脊の高い男でしたから、私は勢ひ彼の顏を見上げるやうにしなければなりません。私はさうした態度で、狼の如き心を罪のない羊に向けたのです。

(『東京朝日新聞』大正3(1914)年7月28日(火曜日)掲載 夏目漱石作「心」「先生の遺書」第九十六回より。太字下線は私が附した)

 以下、私のオリジナル・シナリオ――

 なお、Kの最後の台詞は「心」では実際には

すると彼は卒然「覺悟?」と聞きました。さうして私がまだ何とも答へない先に「覺悟、―覺悟ならない事もない」と付け加へました。彼の調子は獨言のやうでした。又夢の中の言葉のやうでした。

である。

   *

○上野公園。(続き)

 Kの後姿。のろのろとフランケンシュタインの怪物のように歩むK。

 追いついて、Kと並んで歩む先生。夕暮れ。

K 「……○○……」

[やぶちゃん注:「○○」には先生の姓が入る。]

 先生の方を見るK(先生目線の上向きのバスト・ショット)。

 先生とK、立ち止まる(フルショット。背後に枯れた木立を煽って)。

 Kの悲痛な顏(真正面のフル・フェイス・ショット)。

 先生の顏(夕日を反射する眼鏡は鏡面のようにハレーションして眼は見えない。見上げる真正面のフル・フェイス・ショット)

 K、淋しそうな眼、表情(真正面のフル・フェイス・ショット)。

K 「……もう、その話はやめよう。」

 対する二人(ミディアム・ショット)。

K 「……やめてくれ。」

先生「(ゆっくりと極めて冷静に)やめてくれつて、僕が、言い出したことじゃない。もともと君の方から持ち出した話じゃないか。……(間)……しかし、君がやめたければ、やめてもいいが、……(間)……ただ、口の先でやめたって仕方あるまい? 君の心でそれを止めるだけの、『覚悟』がなければ。……一体、君は、君の平生の主張をどうするつもりなんだ?」

 項垂(うなだ)れていることが分かるKの後頭部(やや上から魚眼レンズの俯瞰ショット。僅かに高速度撮影)。間。カメラがややティルト・アップすると、向うに先生(捉えた瞬間、先生を迅速にフレーム・アップ。則ち、次の二つの台詞はフレーム上ではオフで発せられることになる)。

K 「……覚悟?……」

 フレームの中の向うの先生が口を開いて何か言おうとする。しかしそれに合わせて、独白(モノローグ)のように、夢の中の言葉のやうに(台詞と共にややティルト・ダウンして、画面いっぱいにKの後姿。項垂れたままに)。

K 「覚悟?……!……覚悟なら……ないこともない……」

 

○上野公園(遠景)
 人気のない夕暮れの上野公園を下ってくる先生とK。小さく。


○上野公園(不忍池への下り坂)
 これ以降、二人の下駄の音のみ(SE)。魚眼レンズでクレーン・アップ、ティルト・ダウンして、手前から二人、イン。下駄の音。

――カッ! カッ! カッ!

 背後から二人の頭部(この映像を下駄の音に合わせて、微かにフレーム・アップ、カット・バック、微かにフレーム・アウト、カット。バックで繰り返す)

 地べたにカメラ、右上からインする先生の下駄の足。先生の足止まる。直ぐ向うを下駄履きのKの足が右から左へ抜ける。先生の両足、踏み変えて、振り返る動作の足(アップ。微かに高速度撮影。先生のにじるキュッという靴音。その音がK一人の下駄音と不協和音のように絡む)。

――カッ! カッ! カッ!(Kの下駄音という風であるが、大きなままで微かにエコーを入れる)

 何気なく振り返る先生(俯瞰ショット。微かに高速度撮影)。夕日が一閃! 眼鏡に反射してハレーションを起こす。

 その先生をなめて、坂を下る項を垂れたままに下ってゆくKの姿。

――カッ! カッ! カッ!

 暮れなずむ薄暗い空(広角)。

 霜に打たれて蒼味を失った茶褐色の杉の木立が梢を並べて聳えている中空(分かる分からない程度にティルト・ダウンさせるが、地上は映さない)。

 先生の右唇を中心にしたフル・フェイス・ショット(魚眼レンズ)。震える、先生の口元!

 遠景。坂下の下ってゆくKの後姿。

――カッ! カッ! カッ!

――カ! カ! カ! カ!

 先生、Kの方へ走ってゆく(クレーン・アップ。微かに高速度撮影。ここでは二人の足音が不協和音のように絡む)。(F・O・。……だが、その後も SE 残る)


――カッ! カッ! カッ!…………

――カ! カ! カ! カ!…………

 

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