大和本草卷之十三 魚之下 シイラ
【和品】[やぶちゃん注:底本は前を受けて『同』。]
シイラ 又名クマビキ筑紫ニテ猫ツラト云味不美尤下
品ナリ長二三尺性亦不佳
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
しいら 又〔の〕名「くまびき」。筑紫にて「猫づら」と云ふ。味、美〔(よ)〕からず。尤も下品なり。長さ二、三尺。性も亦、佳〔(よ)〕からず。
[やぶちゃん注:スズキ亜目シイラ科シイラ属シイラ Coryphaena hippurus。ウィキの「シイラ」を引く。『成魚は最大で体長2m・体重40kg近くに達する。体は強く側扁して体高が高く、体表は小さな円鱗に覆われる。また、オスの額は成長に従って隆起する。背鰭は一つで』、55~65の『軟条からなり、頭部から尾の直前まで背面のほとんどに及ぶ。臀鰭は』25~31軟条を有する。『体色は「背面が青・体側が緑-金色で小黒点が点在する」ものが知られるが、これは釣りなどで水揚げされた直後のもので、死後は色彩が失せ』、『全体的に黒ずんだ体色に変化する。また、遊泳中は全体的に青みがかった銀色である』。『全世界の熱帯・温帯海域に広く分布し、温帯域では季節に応じて回遊を行う。日本近海でも暖流の影響が強い海域で見られ、夏から秋にかけては暖流に乗って北海道まで北上するものもいる』。『主に外洋の表層』(深度5〜10メートル)『に生息し、群れを作って俊敏に泳ぐ』。『流木などの漂流物の陰に好んで集まる性質があり、幼魚も流れ藻によく集まる。音を恐れず、却って音源に集まる』。『食性は肉食性で、主にイワシやトビウオなどの小魚を追って捕食する他、甲殻類やイカなども食べる。水面近くの餌を追って海上にジャンプすることもある』。『全長35〜55cm、生後4〜5か月で性成熟する。寿命は4年程度』。異名が多く、『シラ(秋田・富山)、マンビキ・マビキ(宮城・九州西部)、シビトクライ(千葉)、トウヤク(高知西部・神奈川・静岡)、トウヒャク(十百、和歌山・高知)、マンサク(万作、中国地方中西部)、クマビキ(高知)、ネコヅラ(猫面、九州)、マンビカー・フーヌイユ(沖縄)』『など、日本各地に地方名がある』。『「シイラ」の名が初めて文献に現れるのは室町時代の辞書』「温故知新書」(文明一六(一四八四)年成立)に『おいてであり、その後』、「節用集」や「日葡辞書」などに『収録されている』。『また、おそらくシイラの塩乾物として都で献上品とされたものが「クマビキ」(くま引、熊引、九万疋と表記された)と呼称されているのも室町時代の文献に見える』。『「マンサク」は、実らず籾殻だけの稲穂のことを俗に「粃(しいな)」(地方によっては「しいら」)と呼ぶことから、縁起の良い「(豊年)万作」に言い換えたといわれる。「シビトクライ」「シビトバタ」などは、浮遊物に集まる習性から水死体にも集まると言われることに由来する。これらの地方ではシイラを「土佐衛門を食う」として忌み嫌うが、動物の遺骸が海中に浮遊していた場合、それをつつきに来ない魚の方がむしろ稀であることは留意する必要がある』。『中国語の標準名では「鯕鰍」(チーチォウ、qíqiū)と表記する。台湾ではその外観から「鬼頭刀」(台湾語 クイタウトー)と呼ば』れる。『英名 "Dolphin fish" はイルカのように泳ぐことから、"Dorado"(スペイン語で「黄金」の意)は釣り上げた時に金色に光ることに由来する。ハワイではマヒマヒ (mahi-mahi、強い強いの意) と呼ばれる』。『漂流物の陰に集まる性質に注目し、シイラを漁獲することに特化した「シイラ漬漁業」(単に「シイラ漬け」とも)と呼ばれる巻網漁の一種が行われる。また俊敏な大型肉食魚で、筋肉質で大変引きが強いことから、外洋での釣りや引き縄(トローリング)の対象として人気が高い。ゴミや流木、鳥山(海鳥が小魚を捕りに集まった状態)などは、シイラがいるポイントである。その他、延縄や定置網などでも漁獲される』とある。驚くべき探索である萩原義雄氏の論文『魚名「しいら【鱪】」攷』(『駒澤日本文化』(二〇一一年十二月発行)所収・PDF)を是非、読まれたい(リンクが何故か機能しないので同標題で検索をお願いする)が、それによれば、「日本大百科事典」(ママ。不詳。この書名の事典は見当たらない。平凡社のそれが近いが、それには頭に「大」が附く)に、『「皮膚が堅く、よく側扁(そくへん)して薄身であることが粃(しいな)実らない籾(もみ)に似ていることから、シイラの名が生まれたという」と見えているのがこの魚名の語源である。この説を有力とするというのが現況となっている』とあり、また、享保一六(一七三一)年刊の「日東魚譜」(神田玄泉著)の「卷四」には、「九萬疋魚」(クマヒキ)で掲げ、そこで『此の魚海中に群れを爲し、引く皃幾萬か知らず、故に京師之を以て名付く』とあるのが「くまびき」の語源説を示し、その後で、大槻文彦編「言海」が、「しいら」と「くまびき」を別に見出しとして挙げており、「クマビキ」は「九万疋」とし、『善く群を成せば名づくと云、或云、胎生にて、多子なればいふと』した上で、『魚の名、しいらに同じ、多くは婚禮、又は雛遊に用ゐて、安産、多子を祝す』と記す。最後の民俗社会での意味合いは、これまた、腑に落ちるものである。「猫づら」は魚顔から直ちに「なるほど」と思わせる異名である。]
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