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2020/08/17

大和本草卷之十三 魚之下 むつ (考えに考えた末にムツゴロウに比定)

 

【和品】[やぶちゃん注:底本は前に合わせて「同」。]

ムツ 東土西州ニモアリ筑後肥前ノ泥海ニ最多シ長七

八寸油アリ煎乄燈油トス頭目共ニ大ナリ尾無岐

石首魚ニ似テ黑筋ノ紋アリ下品也性味不佳

○やぶちゃんの書き下し文

【和品】

むつ 東土、西州にもあり。筑後・肥前の泥海に最も多し。長さ七、八寸。油あり。煎(せん)じて燈油とす。頭〔かしら〕〕・目共に大なり。尾、岐(また)、無し。石首魚〔(ぐち)〕に似て、黑筋の紋あり。下品なり。性・味、佳からず。

[やぶちゃん注:これはちょっと困った。特定の種(群)に当てはめようとすると、叙述に多くの矛盾が生ずるからである。まず、例えば、「東」「西」の日本で広く漁獲され、脂が多く、「頭」(これを「口」と読み換える)と「目」とが大きいとなると、現行の標準和名でズバリ、「ムツ」の、深海魚である

条鰭綱スズキ目スズキ亜目ムツ科ムツ属ムツ Scombrops boops

が一見、当て嵌まるように思えるのだが、何だか、おかしい。「尾」は綺麗に分岐しているからだ。そもそもが「泥海」なんぞにはムツはいないぞ? 「筑後」と「肥前」の「泥」の「海」(広大な干潟)に「最も多」く認められ、脂が多く、「頭」と「目」が大きいと言えば、これはもう、あの有名な、

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科オキスデルシス亜科ムツゴロウ属ムツゴロウ Boleophthalmus pectinirostris

に他ならないからである。

 しかし、既に出た、「石首魚〔(ぐち)〕」(スズキ目スズキ亜目ニベ科シログチ属シログチ Pennahia argentata 及び ニベ科ニベ属ニベ Nibea mitsukurii)似ているとなったら、明らかに前者であろうし、ムツゴロウは有明海と八代海にしか棲息しないから、「東土」が当てはまらない。

 「黑筋の紋」に至っては、敢えて言うならムツの特徴だ(ムツの成魚は全体的に紫黒色となるが、腹側が銀灰色を帯びるため、そのように見えぬことはない)。だが、綺麗に洗ってみると、ムツゴロウにだって体側に「筋」ではないが、特徴的な黒い転々とした「紋」がある。

 さても行き詰まった。少し考えてみた。

 はっきりと「東」日本にもいるというのは、実際に益軒が見たからではなく、そう聴いたのを記載した可能性が頗る高い点である(益軒は京都遊学以外は殆んどの人生を福岡で過ごした)。実は「ムツ」という名はとんでもなくややこしい和名で、全然関係のない魚類の異名に盛んに「~ムツ」と附くのである。その中に、「アカムツ」と呼ばれた、ハゼ、則ち、ムツゴロウとも近縁である、江戸の干潟でこれを釣るのが非常に好まれた、

オキスデルシス亜科トビハゼ属トビハゼ Periophthalmus modestus

がいるのだ。有明海ではムツゴロウを単に「ムツ」とも呼ぶ。さすれば、江戸帰りの藩士や江戸の本草学者に「江戸の干潟に頭と目のでっかいムツはいるか?」と訊ねた際、アカムツのことと思った相手は「いる」と応じるに決まっていると考えたのだ。

 正直、もう少し、益軒が見知っている「ムツ」の形態をちゃんと描写して呉れれば、こんな袋小路には陥らなくて済んだのに、とは思う。ともかくも私はこれをムツゴロウに同定して終わりとする。大方の御叱正を俟つ。

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