大和本草卷之十三 魚之下 ひだか (ウツボ)
【和品】[やぶちゃん注:底本は前に合わせて「同」。]
ヒダカ 大如指身マルシ黃白色長三四尺ウナキニ似テ
小ナリ食フヘシウナキノ類ナリ本草所載鱓魚是ナルカ
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
ひだか 大〔いさ〕指のごとく、身、まるし。黃白色、長さ三、四尺。うなぎに似て、小なり。食ふべし。うなぎの類〔(るゐ)〕なり。「本草」載〔する〕所〔の〕「鱓魚」、是れなるか。
[やぶちゃん注:当初は外来種で西日本に分布する条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目タウナギ目タウナギ科タウナギ属タウナギ Monopterus albus に比定しようと思ったが、本邦への移入は近代(一説に明治三三(一九〇〇)年前後に朝鮮半島から奈良県に持ち込まれたという記録があるという)らしく、これはボツ。しかし「ヒダカ」という和名が、いっかな、見つからない。やっと見つけたのが、磯野直秀先生の論文「『日葡辞書』の動物名」(PDFでダウン・ロード可能)で、そこには『ひだか』『(ウツボ,「細長い毒魚」)』で名前には波線が引かれており、これは同論文凡例部に初出と思われる単語を指す(「日葡辞書」は慶長八(一六〇三)年に本編が、翌年に補遺編が長崎で出版されたイエズス会宣教師の編になる日本語・ポルトガル語辞典)。今から四百年以前に九州に普通に棲息し、しかも宝永六(一七〇九)年刊の本書に、かくも普通に現認出来る魚として書かれる以上、これはもうタウナギではなく、
条鰭綱ウナギ目ウツボ亜目ウツボ科ウツボ属ウツボ Gymnothorax kidako
ということになる。一メートル前後に成長し、胸鰭・腹鰭はなく、やや側扁し、独特の黒と黄色の網目模様を有する。鋭い歯列を持ち、咬まれると危険。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のウツボのページによれば、『島根県』から『九州の日本海・東シナ海、千葉県館山』から『九州南岸の太平洋、瀬戸内海、屋久島、奄美大島』及び『朝鮮半島南部、済州島、台湾』の『比較的暖かい海域の』『浅い岩礁地帯』に棲息し、『夜行性』。『エビカニ(甲殻類)、軟体類(貝)、タコなど捕食』する。『食用にする地域と、しない地域がある。主に暖かい主に太平洋側で食用になっている』。『千葉県外房の冬期のウツボの開き干しは風物とも言えそうだが、伊豆半島、紀伊半島、徳島県、高知県などでよく食べられて』おり、『和歌山県などの佃煮(小明石煮)も有名』とあり、『スーパーなどでも非常に希にこのような加工品を見かける』とある。私は干物は食って美味いと思ったが、たたきは何度か食す機会を逸し、残念なことに未だ食べていない。
「黃白色」やや疑問だが、ネットが画像を縦覧するに、個体によっては黒い斑(まだら)部分が濃くなく、白っぽく見えたり、全身が黃白色に見えるものがいるようである。
『「本草」載〔する〕所〔の〕「鱓魚」、是れなるか』「鱗之四」に、
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鱓【「善」。】魚【「别録上品」。】
釋名黄䱇【音「旦」。】宗奭曰、『鱓腹黃、故世稱黃鱓。』。時珍曰、『「異苑」作黃䱇、云黃疸之名、取乎此也。藏器言當作「鱣魚」、誤矣。鱣字平聲、黃魚也。』。
集解韓保昇曰、『鱓魚生水岸泥窟中。似鰻鱺而細長、亦似蛇而無鱗、有靑、黃二色。』。時珍曰、『黃質黑章、體多涎沫、大者長二三尺、夏出冬蟄。一種蛇變者名「蛇鱓」、有毒害人。南人鬻鱓肆中、以缸貯水、畜數百頭、夜以燈照之、其蛇化者、必項下有白㸃。通身浮水上、卽棄之。或以蒜瓣投於缸中、則羣鱓跳擲不已、亦物性相制也。藏器曰、『作臛、當重煑之、不可用桑柴、亦蛇類也。弘景曰、『鱓是荇芩根所化、又云死人髮所化。今其腹中自有子、不必盡是變化也。』。
肉 氣味 甘、大溫、無毒。思邈曰、『黑者有毒。』。弘景曰、『性熱能補。時行病後食之、多復。』。宗奭曰、『動風氣。多食、令人霍亂。曾見一郎官食此、吐利幾死也。時珍曰、『按「延夀書」云、「多食、發諸瘡、亦損人壽。大者、有毒殺人。不可合犬肉、犬血食之。」。』。[やぶちゃん注:以下、「主治」に続くが、略す。]
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とある。トンデモ化生説を時珍を含めて複数の本草学者が語っており、弘景の死人の髪の毛が変ずるとも言う、というところが如何にもキモい。最後の犬の肉と合わせてはよくない、犬の血が鱓の肉をだめにするからというのも、なんじゃらほいで面白い。]
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