畔田翠山「水族志」 (二五〇) ゴカイ (カワゴカイ属)
(二五〇)
ゴカイ【紀州加太】 海石ノ間ニアリ蚯蚓ニ似テ足アルヿ蜈蚣ノ如クニ乄細ク短ク肉色也漁人ハ取テ魚釣ノ餌トス
○やぶちゃんの書き下し文
(二五〇)
ゴカイ【紀州加太。】 海石の間にあり。蚯蚓〔みみづ〕に似て、足あること、蜈蚣〔むかで〕のごとくにして、細く短く、肉色なり。漁人は、取りて、魚釣りの餌とす。
[やぶちゃん注:底本はここ。
狭義の「ゴカイ」はかつては Hediste japonica の和名として当てられていたが、近年、この狭義の「ゴカイ」類は、
環形動物門多毛綱サシバゴカイ目ゴカイ超科ゴカイ科カワゴカイ属 Hediste
に属する以下の三種に分類されるようになり(一九九九年から二〇〇〇年にかけての乳酸脱水素酵素などアロザイム及び疣足・剛毛の形態比較分析の結果、形態的に良く似た複数種が混同されている事実が明らかとなったため)、生物学上の単一種としてのゴカイという標準和名は消失した。
ヤマトカワゴカイ Hediste diadroma
ヒメヤマトカワゴカイ Hediste atoka
アリアケカワゴカイ Hediste japonica(旧和名「ゴカイ」)
畔田の指すゴカイは以上の三種に限定してもよいが(「カワゴカイ」の「カワ」は「川」で干潟以外に河口付近の汽水域に多く棲息することからの命名かと思われる。なお、「ゴカイ」の漢字表記は「沙蚕」が一般的である )、但し、「ゴカイ」は現在でも、日本での記載種は千種を超えるところの、広義の多毛綱Polychaeta全体の総称、或いは、多毛類の中の一つの科であるゴカイ科 Nereididae に属する多毛類の総称としても、ごく当たり前に使われてはいる。一般には、釣りの餌で知られる、海中を自由遊泳をする遊在性の上記の三種や、同じくゴカイ科の、Tylorrhynchus 属イトメ Tylorrhynchus heterochaetus などを特に「ゴカイ」としてイメージし易く、イトメは盛んに釣り餌として使用するので、これは絶対に加えなくてはならぬと思うのだが、実は後に出る「ウミヒル」がそれらしく思われるので、ここでは敢えて候補としない。但し、実際には、棲管を形成し固着して動かないケヤリムシ目ケヤリムシ科 Sabellidae のケヤリムシ Sabellastarte japonica や、同科のエラコ Pseudopotamilla occelata のような定在性多毛類(かつて一九六〇年代頃まで多毛綱はこの固着性の定在目と自由生活をする遊在目の二目に分類されていたが、これは従来から安易な実体観察に基づく多分に非生物学的な分類であるとする疑義があり、分類の見直しが進んだ現在はあまり用いられない)を、やはり、普通に広く「ゴカイの仲間」と呼んでいる事実は知識として押さえておく必要があることを言い添えておく。
「紀州加太」現在の和歌山県和歌山市加太の加太湾及び加太沿岸(グーグル・マップ・データ)。]
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