大和本草卷之十三 魚之下 八目鰻鱺(やつめうなぎ)
【和品】[やぶちゃん注:底本は前に合わせて「同」。]
八目鰻鱺 ウナギニ似テ白㸃如目ナルモノ八九アリ
味不好世俗ニ鱓ヲヤツメウナギト訓ズ未是鱓ハ別
物ナリ
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
八目鰻鱺(〔やつめ〕うなぎ) 「うなぎ」に似て、白㸃〔(はくてん)〕、目のごとくなるもの、八、九あり。味、好からず。世俗に「鱓〔(セン)〕」を「やつめうなぎ」と訓ず、未だ是〔(ぜ)なら〕ず〔して〕、鱓は別物なり。
[やぶちゃん注:脊椎動物亜門無顎上綱(円口類=無顎類) 頭甲綱ヤツメウナギ目ヤツメウナギ科 Petromyzontidae に属する生物。体制が似ているために「ウナギ」の呼称がつくが、生物学的には、タクソン上、魚上綱に含まれないため、魚ではないとする見解さえあるが、では、その習性から魚に付着して体液を吸引する魚類寄生虫とするのも、私には馴染まない気がする。複数種が知られるが、本邦の場合、食用有益種としては同科ヤツメウナギ目 Petromyzontiforme のカワヤツメ(ヤツメウナギ)Lampetra japonica 及びスナヤツメ Lethenteron reissneri である。ヤツメウナギ類はウナギ類のレプトセファロス(Leptocephalus)同様に、幼生が成魚と大きく異なった形態をしており、アンモシーテス(Ammocoetes)と呼ばれる。幼生は目が皮下に埋没していて無眼に見え(但し負の走光性を示すので感覚器としては機能していると思われる)、口吻もロート状又は頭巾状(成魚は吸着吸引に特化した吸盤状)で、川床の泥中に四年間程(ある記載では一~七年と幅が広い)底棲している。変態後(変態後は開眼する)は海に下り、魚類に吸着して体液を吸う(ヤツメウナギ目には降河しない種がおり彼等は産卵まで餌を全くとらないという)、二~三年後(スナヤツメではこの期間が短く半年程度であるらしい)に産卵のために、再び、川に遡上する。その際にはもう摂餌をせず、目も消化管と共に退化してしまい、体長もアンモシーテス期より逆に小さくなるとも言う。再び盲(めし)い、飲まず食わずで身を細らせての皮つるみ、そして死――ドラキュラのごとく忌み嫌われる彼等も、確かな生物の厳粛な営みの中にいるのである。
「目のごとくなるもの、八、九あり」ヤツメウナギの体の両側には七対の鰓孔があり、それが、一見、眼のように見えることから、本来の眼と合わせて「八目」と呼ばれるが、これに加えて鼻孔入れると、九つ見えるのである。
「鱓」既に「大和本草卷之十三 魚之下 ひだか (ウツボ)」で、益軒は正しくウツボに同定している。]
« 大和本草卷之十三 魚之下 こち | トップページ | 金玉ねぢぶくさ卷之四 若狹祖母 / 金玉ねぢぶくさ卷之四~了 »