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2020/10/25

畔田翠山「水族志」 アヲ (アオブダイ・アミメブダイ・スジブダイ)

 

(一一)

アヲ【熊野通名】 鸚哥魚

形狀「イソアマダヒ」ニ似頭癭アリ齒口外ニ出テ鳥嘴ノ如シ上下齒板牙ニ乄端ニ小鋸齒ヲナス本藍色細黑㸃アリ末ハ白色也頰藍色ニ乄褐斑アリ癭灰白色鱗粗大ニ乄淡黃褐色ニ褐色ノ斑每鱗アリ腹淡紅色ヲ帶背鬣腰下鬣倶ニ本褐色末藍色脇翅本淡黃色端藍色腹下翅藍色尾ニ岐ナク藍色眼上眼前ニ褐色ノ斑アリ續修臺灣府志曰鸚哥魚鳥嘴紅色週身皆綠孫元衡有詩朱施烏啄翠成襦臺灣縣志曰鶯哥魚狀如鯉週身綠嘴烏而勾曲似鶯哥故名臺灣府志曰鸚哥魚嘴如鸚鵡而皮綠色一種形同乄背深藍色腹淺藍色翅黃ヲ帶ル者アリ八丈物產記曰ク「マノミ」色靑黛ノ如ク異形ナル魚也丈ケ一尺二三寸身柔ニシテ味平ナリ一種遍身綠色ニ乄齒紅色ノ者アリ此餘品類アリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一一)

アヲ【熊野。通名。】 鸚哥魚〔いんこうを〕

形狀、「イソアマダヒ」に似て、頭、癭〔こぶ〕あり。齒、口外に出でて、鳥の嘴〔くちばし〕のごとし。上下の齒、板牙〔ばんが〕にして、端〔はし〕に小鋸齒〔しやうきよし〕をなす。本〔もと〕は藍色、細き黑㸃あり。末は白色なり。頰、藍色にして、褐斑〔かつぱん〕あり。癭〔こぶ〕、灰白色。鱗、粗大にして、淡黃褐色に褐色の斑〔まだら〕、鱗每〔ごと〕にあり。腹、淡紅色を帶ぶ。背鬣〔せびれ〕・腰下の鬣〔ひれ〕、倶に、本〔もと〕、褐色、末〔すゑ〕、藍色。脇翅〔むなびれ〕、本、淡黃色、端、藍色。腹下の翅〔ひれ〕、藍色。尾に岐なく、藍色。眼の上、眼前に褐色の斑あり。「續修臺灣府志」に曰はく、『鸚哥魚、鳥の嘴、紅色、週身、皆、綠。孫元衡、詩、有り。「朱施烏啄翠成襦」』と。「臺灣縣志」に曰はく、『鶯哥魚〔いんこうを〕、狀〔かたち〕、鯉のごとく、週身、綠。嘴、烏〔からす〕にして、勾曲〔こうきよく〕し、鶯哥〔いんこ〕に似たり。故に名づく』と。「臺灣府志」に曰はく、『鸚哥魚〔いんこうを〕、嘴、鸚鵡〔あうむ〕のごとくにして、皮、綠色なり』と。

一種、形、同じくして、背、深き藍色、腹、淺き藍色。翅〔ひれ〕、黃を帶ぶる者あり。「八丈物產記」に曰はく、『「マノミ」。色、靑黛〔せいたい〕のごとく、異形なる魚なり。丈〔た〕け、一尺二、三寸。身、柔らかにして、味、平なり』と。

一種、遍身、綠色にして、齒、紅色の者あり。此れ、餘品の類〔るゐ〕あり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。主記載は、

スズキ目ベラ亜目ブダイ科アオブダイ亜科アオブダイ属アオブダイ Scarus ovifrons

を指しているとしてよかろう。ここで「ブダイ」というブダイ科 Scaridaeの総称和名について言っておくと、漢字では「舞鯛」「武鯛」「不鯛」「部鯛」といった字が当てられ、サイト「FISH WORLD」のブダイによれば、『姿が武士のいくさで着る鎧のようにウロコが大きいから「武鯛」。泳ぎ方がヒラヒラと舞うようだから「舞鯛」。不細工な姿をした鯛ということで「不鯛」などと、名の由来にはいろいろな説があ』るとある。さて、ウィキの「アオブダイ」によれば、『岩礁やサンゴ礁に生息する大型魚で、名の』通り、『青みの強い体色が特徴である』。『体長は最大90 cmほど』で、和名が示すように、『体色は青みが強いが、体の各所に赤褐色、白、黒などの斑点が出るものもいる。成魚は頬に白っぽい斑点が出て、前頭部がこぶのように突き出るが、若魚は頬に斑点がなく、額にこぶもない』。『歯は上下それぞれが融合して、鳥のくちばしのような形状をしている。これは他のアオブダイ亜科の魚にも共通する特徴で、人間の指を噛み切るくらいの顎の力もあるので注意が必要である』。『東京湾、朝鮮半島以南からフィリピンまでの西太平洋に分布し、浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息する』。ハゲブダイ属ナンヨウブダイ Chlorurus microrhinos や、ブダイ科アオブダイ亜科カンムリブダイ属カンムリブダイ Bolbometopon muricatum)など、『他のアオブダイ亜科』Scarinae『の魚が熱帯のサンゴ礁に生息するのに対し、アオブダイは温帯域にも生息する』。『食性は雑食性で、藻類、甲殻類、貝類などいろいろなものを食べる。強靭な歯と顎でサンゴの骨格をかじるとされてきたが、これはサンゴではなく、サンゴの枝についた藻類を食べるための行動とみられる。現在のところ、生きたサンゴを餌にするのが確認されたのはアオブダイに近縁のカンムリブダイだけである』。『昼間に活動し、夜は岩陰などで眠る。眠る際は』、『口から粘液を出して、自分を覆う薄い透明の「寝袋」を作り、その中で眠る行動が知られている』。『釣りや網などで漁獲され、食用になるが』、食中毒による複数の死亡例があるので、食べるべきではないと私は考える。『また、特徴的な魚だけに、古来から各地方独特の方言呼称もある』。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアオブダイのページによれば、「ハチ」(頭部の「鉢」であろう)「バンド」「ブダイ」「アオイガミ」「アオタ」「イガミノオバ」「コブ」「ハースマイラブチャー」「ハッチイ」「ハトイガミ」「バンド」「モハミ」などの多様な異名が記されてある(但し、これらの多くはブダイ類に共通する異名として考えねばなるまい)。『日本では1953年以降、5人のアオブダイによる食中毒での死亡例がある』。『アオブダイはスナギンチャク』(刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱スナギンチャク目 Zoanthidea の多様な種を指す)『を捕食するため』、『パリトキシン』(palytoxin:最強の海産毒素の一種。海産毒素として最も毒性が強いとされるマイトトキシン(maitotoxin)に次ぐ猛毒とされ、呼称名は一九七一年にハワイに棲息する伝説的に猛毒を有するとされていたイワスナギンチャクの一種 Palythoa toxica から初めて単離されたことによる)『という強力な毒成分を蓄えており、内臓を食べてはいけないとされている。また、フグ毒で知られるテトロドトキシン』(tetrodotoxin:TTX)『が内臓から検出された事例もあ』り、しかも『パリトキシンは』テトロドトキシン同様、『加熱や塩蔵によっては分解されない』。『日本においては、有毒成分を含むことを理由として、アオブダイの販売自粛を求める通知が厚生労働省から』出されている、とある。パリトキシン中毒は横紋筋融解症(筋肉が溶け出すと考えてよい)を発症させ、急性腎不全を引き起こして重篤な状態に陥るので、本種の食用は厳に慎むべきである。

「鸚哥魚〔いんこうを〕」口吻の形状から、鳥のオウム目インコ科 Psittacidae のインコ類に比したもの。

「イソアマダヒ」既に複数の条で見てきた通り、スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio を指すと考えてよい。

「齒、口外に出でて、鳥の嘴〔くちばし〕のごとし。上下の齒、板牙〔ばんが〕にして、端〔はし〕に小鋸齒〔しやうきよし〕をなす」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアオブダイ属の口吻部画像を見られたい。

「續修臺灣府志」清の余文儀の撰になる台湾地誌。一七七四年刊。この「臺灣府志」は一六八五から一七六四年まで、何度も再編集が加えられた地方誌である。その書誌データは維基文庫の「臺灣府志」に詳しい。「中國哲學書電子化計劃」によって、以下は、同書の巻十八にあることが判った。

   *

鸚哥魚、鳥嘴、紅色。周身皆綠。孫元衡有詩云、『朱施鳥喙翠成襦 陸困樊籠水厄罛 信是知名無隱法 曾聞眞臘有浮胡』。相傳眞臘有魚、名爲浮胡。嘴似鸚鵡同上。

   *

孫元衡(生没年未詳)は清の官吏で文人。「罛」(音は「ロ・ク・コ」)は大きな漁網の一種を指す。詩の意味は判らぬが、ブダイ類は現在、刺し網の漁網に掛かって、網を食い破る厄介者とされている。「眞臘」は現在のベトナム。

「臺灣縣志」清の王禮撰になる台湾県誌。一七二〇年完成。同じく「中國哲學書電子化計劃」によって、「土產」の部に、

   *

鶯哥魚、狀如鯉魚而闊。色綠、嘴尖而勾曲、似鶯哥嘴、故名。澎湖所產。

   *

とあって、畔田が「烏」とするところが、「尖」となっており、その前も、体幅が広いことを言っているようで、この方が躓かずに読める。「澎湖」は澎湖(ほうこ)諸島で、台湾島の西方約五十キロメートルに位置する台湾海峡上の島嶼群。ここ(グーグル・マップ・データ)。

「臺灣府志」これは先のそれとは別編集のもので、恐らくは先行する「臺灣府志(蔣志)」(蔣毓英(いくえい)撰・一六八四年刊)或いは「臺灣府志(高志)」(高拱乾撰・一六九六年刊)の記載で、「中國哲學書電子化計劃」によって後者に、

   *

鸚哥魚嘴如鸚鵡。而皮綠色。

   *

とあるのが確認出来た。

一種、形、同じくして、背、深き藍色、腹、淺き藍色。翅〔ひれ〕、黃を帶ぶる者あり」八丈島で獲れるこの様態となると、一つ、

アオブダイ亜科アオブダイ属アミメブダイ Scarus frenatus

を挙げていいような気がする。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアミメブダイを見られたい。本種の♂は派手で、西洋の博物学者が狂喜乱舞しそうな図譜向きの多色で、しかも頭部側面に人工的な印象を受ける独特の紋を持ち、一目見れば、まず忘れられない。「異形」と言うに相応しい。体長は三十六センチメートル近くになるから、「一尺二、三寸」もぴったり一致する。食味も(私は食べたことがない)、ぼうずコンニャク氏の評によれば、「身、柔らかにして、味、平なり」と大きな隔たりは感じられない。

「八丈物產記」大村某なる人物が寛延四・宝暦元(一七五一) 年に書いた「八丈物産誌」か。現物を確認出来ないので判らない

「靑黛」化粧用の青い眉墨(まゆずみ)。特に歌舞伎でメーキャップに使う藍色の顔料が知られ、月代(さかやき)に使う羽二重鬘(はぶたえかつら)に塗るほか、藍隈(あいぐま:歌舞伎の隈取りの一つ。藍で青く顔を隈取るもの。怨霊・公家悪(くげあく)などの役柄に用いる)などに用いる。

一種、遍身、綠色にして、齒、紅色の者あり」歯が赤いというのは、誤認のような気がする(歯が赤い種というのはちょっと知らない。口吻部が赤いということか)が、それを無視すると、全身が緑色であるという点では、

アオブダイ亜科アオブダイ属スジブダイ Scarus rivulatus

を挙げてよいだろう。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のスジブダイを見られたい。私がこれを一押しにする理由は、リンク先に本種の棲息域として、高知県柏島・愛媛県愛南が挙げられているからである。和歌山の畔田が全く現認出来ない南西諸島のブダイ類が、本書に載ると考えるのは甚だ無理があるからである。

「此れ、餘品の類〔るゐ〕あり」こうした類似した個体群は他にも有意にいる。]

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