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2020/10/23

北原白秋 邪宗門 正規表現版 入日の壁

 

  入 日 の 壁

 

黃(き)に潤(しめ)る港の入日(いりひ)、

切支丹(きりしたん)邪宗(じやしゆう)の寺の入口(いりぐち)の

暗(くら)めるほとり、色古りし煉瓦(れんぐわ)の壁に射かへせば、

靜かに起る日の祈禱(いのり)、

『ハレルヤ』と、奧にはにほふ讃頌(さんしよう)の幽(かす)けき夢路(ゆめぢ)。

 

あかあかと精舍(しやうじや)の入日。――

ややあれば大風琴(おほオルガン)の音(ね)の吐息(といき)

たゆらに嘆(なげ)き、白蠟(はくらふ)の盲(し)ひゆく淚。――

壁のなかには埋(うづ)もれて

眩暈(めくるめ)き、素肌(すはだ)に立てるわかうどが赤き幻(まぼろし)。

 

ただ赤き精舍(しやうじや)の壁に、

妄念(まうねん)は熔(とろ)くるばかりおびえつつ

全身(ぜんしん)落つる日を浴(あ)びて眞夏(まなつ)の海をうち睨(にら)む。

『聖(サンタ)マリヤ、イエスの御母(みはは)。』

一齊(いつせい)に禮拜(をろがみ)終(をは)る老若(らうにやく)の消え入るさけび。

 

はた、白(しら)む入日の色に

しづしづと白衣(はくえ)の人らうちつれて

濕潤(しめり)も暗き戶口(とぐち)より浮びいでつつ、

眩(まぶ)しげに數珠(じゆず)ふりかざし急(いそ)げども、

など知らむ、素肌(すはだ)に汗(あせ)し熔(とろ)けゆく苦惱(くなう)の思(おもひ)。

 

暮れのこる邪宗(じやしゆう)の御寺(みてら)

いつしかに薄(うす)らに靑くひらめけば

ほのかに薰(くゆ)る沈(ぢん)の香(かう)、波羅葦增(ハライソ)のゆめ。

さしもまた埋(うも)れて顫(ふる)ふ妄念(まうねん)の

血に染みし踵(かがと)のあたり、蟋蟀(きりぎりす)啼きもすずろぐ。

四十一年八月

 

[やぶちゃん注:「踵(かがと)」古くは濁音であった。

「蟋蟀(きりぎりす)」私はキリギリスとコオロギの近代以前と現代の一律相互転換には激しく反対するものであるが、ここは映像設定とSE(サウンド・エフェクト)から考えても、音数律から「きりぎりす」を選んだもので、実体は実体は蟋蟀=こおろぎ=コオロギであることは言うまでもあるまい。]

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