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« 北原白秋 邪宗門 正規表現版 硝子切るひと | トップページ | 畔田翠山「水族志」 アヲ (アオブダイ・アミメブダイ・スジブダイ) »

2020/10/25

北原白秋 邪宗門 正規表現版 惡 の 窓  斷篇七種 (全)

 

[やぶちゃん注:以下で冒頭に掲げたのは、「惡の窓」パート冒頭見開き。右にパート標題と石井白亭の挿絵。左ページは挿入画で、これは、本詩集の最後(奥附の前の前)に配されてある装幀・挿絵その他のリストにある、『太田正雄』(木下杢太郎)の「私信『四十一年七月廿一日便』」とするものと思われる。ご覧の通り、太田の北原白秋宛書簡(葉書であろう)を写真版に起こしたものである。奇体な絵の四隅の文面は、やや読み難いが、右上→左上→右下→左下の順に(私が判読できなかったものは□で示した)、

   *

僕ハ六五日頃一たん帰岡

しやうと思つてゐる。

九月にどういふ

事でもどつ

てくる

かわ

 

らぬ

也國の実□

と、我を以て家を建て

 

それまで、一𢌞あつて

また「美き日の歌」

でも歌はふ

 

て□返るかも知れない

   *

か。「帰岡」杢太郎の故郷は静岡である。左上の二行目は「國の実兄」と読みたかったが、「兄」の崩しではない。或いは「國」は「圓」ではないかとも思った。彼の次兄は太田圓三(土木技師・鉄道技師)という名であるからである。最終の左下も存外に読めなかった。「て(で)も」「ち(ぢ)き」等を考えたが、崩しが合わない。識者の御教授を乞う。

 全七断篇を纏めて電子化注する。総標題下の「斷篇七種」は底本では御覧の通り、右寄りである。各断篇は一作毎に改ページ開始で整序されているので(「五」と「六」は見開き左右に各篇分置)、各篇の間を三行空けた。]

 

Akunomadomihiraki

 

   惡 の 窓  斷篇七種

 

 

   一 狂 念

 

あはれ、あはれ、

靑白(あをじろ)き日の光西よりのぼり、

薄暮(くれがた)の燈のにほひ晝もまた點(とも)りかなしむ。

 

わが街(まち)よ、わが窓よ、なにしかも燒酎(せうちう)叫(さけ)び、

鶴嘴(つるはし)のひとつらね日に光り悶(もだ)えひらめく。

 

汽車(きしや)ぞ來(く)る、汽車(きしや)ぞ來(く)る、眞黑(まくろ)げに夢とどろかし、

窓もなき灰色(はひいろ)の貨物輌(くわもつばこ)豹(へう)ぞ積みたる。

 

あはれ、はや、燒酎(せうちう)は醋(す)とかはり、人は轢(し)かれて、

盲(めし)ひつつ血に叫ぶ豹(へう)の聲遠(とほ)に泡(あわ)立つ。

 

 

 

   二 疲 れ

 

あはれ、いま暴(あら)びゆく接吻(くちつけ)よ、肉(ししむら)の曲(きよく)。……

 

かくてはや靑白く疲(つか)れたる獸(けもの)の面(おもて)

今日(けふ)もまた我(われ)見据(みす)ゑ、果敢(はか)なげに、いと果敢(はか)なげに、

色濁(にご)る窓硝子(まどがらす)外面(とのも)より呪(のろ)ひためらふ。

 

いづこにかうち狂(くる)ふ井゙オロンオロンよ、わが唇(くちびる)よ、

身をも燬(や)くべき砒素(ひそ)の壁(かべ)夕日さしそふ。

 

 

 

   三 薄 暮 の 負 傷

 

血潮したたる。

 

薄暮(くれがた)の負傷(てきず)なやまし、かげ暗(くら)き溝(みぞ)のにほひに、

はた、胸に、床(ゆか)の鉛(なまり)に……

 

さあれ、夢には列(つら)なめて駱駝(らくだ)ぞ過(す)ぐる。

埃及(えじぷと)のカイロの街(まち)の古煉瓦(ふるれんが)

壁のひまには砂漠(さばく)なるオアシスうかぶ。

その空にしたたる紅(あか)きわが星よ。……

 

血潮したたる。

 

[やぶちゃん注:「古煉瓦(ふるれんが)」のルビはママ。]

 

 

 

   四 象 の に ほ ひ

 

日をひと日。

日をひと日。

 

日をひと日、光なし、色も盲(めし)ひて

ふくだめる、はた、病(や)めるなやましきもの

窻ふたぎ窻ふたぎ氣倦(けだ)るげに唸(うな)りもぞする。

 

あはれ、わが幽欝(いううつ)の象(ざう)

亞弗利加(あふりか)の鈍(にぶ)きにほひに。

 

日をひと日。

日をひと日。

 

 

 

   五 惡 の そ び ら

 

おどろなす髮の亞麻色(あさいろ)

背(そびら)向け、今日(けふ)もうごかず、

さあれ、また、絕えずほつほつ

息しぼり『死』にぞ吹くめる、

血のごとき石鹼(しやぼん)の珠(たま)を。

 

 

 

   六 薄 暮 の 印 象

 

うまし接吻(くちつけ)……歡語(さざめごと)……

 

さあれ、空には眼(め)に見えぬ血潮(ちしほ)したたり、

なにものか負傷(てお)ひくるしむ叫(さけび)ごゑ、

など痛(いた)む、あな薄暮(くれがた)の曲(きよく)の色、――光の沈默(しじま)。

 

うまし接吻(くちつけ)……歡語(さざめごと)……

 

 

 

   七 う め き

 

暮(く)れゆく日、血に濁る床(ゆか)の上にひとりやすらふ。

街(まち)しづみ、窻しづみ、わが心もの音(おと)もなし。

 

載(の)せきたる板硝子(いたがらす)過(す)ぐるとき車燬(や)きつつ

落つる日の照りかへし、そが面(おもて)噎びあかれば

室内(むろぬち)の汚穢(けがれ)、はた、古壁に朽ちし鉞(まさかり)

一齊(ひととき)に屠(はふ)らるる牛の夢くわとばかり呻(うめ)き悶(もだ)ゆる。

 

街(まち)の子は(たはむ)れに空虛(うつろ)なる乳(ち)の鑵(くわん)たたき、

よぼよぼの飴賣(あめうり)は、あなしばし、ちやるめらを吹く。

 

くわとばかり、くわとばかり、

黃(き)に光る向(むか)ひの煉瓦(れんぐわ)

くわとばかり、あなしばし。――

惡の窻畢――四十一年二月

 

[やぶちゃん注:最後のクレジット注記の「惡の窻」の「窻」はママ。冒頭のパート総標題は『惡の窓』である。]

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