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2020/10/15

北原白秋 邪宗門 正規表現版 耽溺

 

  耽 溺

 

あな悲(かな)し、紅(あか)き帆(ほ)きたる。

聽(き)けよ、今(いま)、紅(あか)き帆(ほ)きたる。

 

白日(はくじつ)の光の水脈(みを)に、

わが戀の器樂(きがく)の海に。

 

あはれ、聽け、光は噎(むせ)び、

海顫ひ、淸搔(すががき)焦(こ)がれ

眩暈(めくる)めく悲愁(かなしみ)の極(はて)、

苦悶(もだえ)そふ歡樂(よろこび)のせて

キユラソオの紅(あか)き帆(ほ)ひびく。

 

彈(ひ)けよ、彈(ひ)け、毒(どく)の井゙オロン

吹けよ、また媚藥(びやく)の嵐。

あはれ歌、あはれ幻(まぼろし)、

その海に紅(あか)き帆(ほ)光る。

 

海の歌きこゆ、このとき、

『噫(あゝ)、かなし、炎(ほのほ)よ、慾(よく)よ、

接吻(くちつけ)よ。』

 

聽けよ、また苦(にが)き愛着(あいぢやく)、

肉(しゝむら)のおびえと恐怖(おそれ)、

『死ねよ、死ね』、紅(あか)き帆(ほ)響(ひゞ)く、

『戀よ、汝(な)よ。』

 

彈(ひ)けよ、彈(ひ)け、毒の井゙オロン

吹けよ、また媚藥(びやく)の嵐。

 

一瞬(ひととき)よ、――光よ、水脈(みを)よ、

樂(がく)の音(ね)よ――酒のキユラソオ、

接吻(くちつけ)の非命(ひめい)の快樂(けらく)、

毒水(どくすゐ)の火のわななきよ。

 

狂(くる)へ、狂(くる)へ、破滅(ほろび)の渚(なぎさ)、

聽くははや樂(がく)の大極(たいきよく)、

狂亂(きやうらん)の日の光吸(す)ふ

紅(あか)き帆の終(つひ)のはためき。

 

死なむ、死なむ、二人(ふたり)は死なむ。

 

紅(あか)き帆(ほ)きゆる。

紅(あか)き帆(ほ)きゆる。

四十年十二月

 

[やぶちゃん注:「淸搔(すががき)」幾つかの意味があるが、原義を当てる。和琴 (わごん) の手法の一つで、全部の弦を一度に弾いて、手前から三番目又は四番目の弦の余韻だけを残すように、他の弦を左指で押さえるもの。

「キユラソオ」Curaçao(フランス語)。リキュールの一種。古くからオランダが主産地で、現在もオランダ自治領であるカリブ海のクラサオ(キュラソー)島特産のビター・オレンジの未熟果の果皮を乾燥させ、基酒であるラムに浸出したもの。フランス産キュラソーはブランデーを基酒とする。オレンジ色のオレンジ・キュラソーや無色のホワイト・キュラソーなどがあり、アルコールは約四十度と高く、カクテルによく用いられる。ブルー・キュラソーの色がよく知られるが、オレンジ・キュラソーを樽熟成させたものは褐色を帯びる。ここで出た二箇所のそれは、後者はそのままであるが、前者は、その色を想像の航海する帆船の色に転じたものである。

「非命」天命でなく、思いがけない災難で死ぬこと。横死。]

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