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2020/10/20

北原白秋 邪宗門 正規表現版 靑き光

 

    靑 き 光

 

哀(あは)れ、みな惱(なや)み入る、夏の夜(よ)のいと靑き光のなかに、

ほの白き鐵(てつ)の橋、洞(ほら)圓(まろ)き穹窿(ああち)の煉瓦(れんぐわ)、

かげに來て米炊(かし)ぐ泥舟(どろぶね)の鉢(はち)の撫子(なでしこ)、

そを見ると見下(みおろ)せる人々(ひとびと)が倦(う)みし面(おもて)も。

 

はた絕えず、惱(なや)ましの角(つの)光り電車すぎゆく

河岸(かし)なみの白き壁あはあはと瓦斯も點(とも)れど、

うち向ふ暗き葉柳(はやなぎ)震慄(わなな)きつ、さは震慄(わなな)きつ、

後(うしろ)よりはた泣くは靑白き屋(いへ)の幽靈(いうれい)。

 

いと靑きソプラノの沈みゆく光のなかに、

饐(す)えて病むわかき日の薄暮(くれがた)のゆめ。――

幽靈の屋(いへ)よりか洩れきたる呪(のろ)はしの音(ね)の

交響體(ジムフオニ)のくるしみのややありて交(まじ)りおびゆる。

 

いづこにかうち囃(はや)す幻燈(げんとう)の伴奏(あはせ)の進行曲(マアチ)、

かげのごと往來(ゆきき)する白(しろ)の衣(きぬ)うかびつれつつ、

映(うつ)りゆく繪(ゑ)のなかのいそがしさ、さは繰りかへす。――

そのかげに苦痛(くるしみ)の暗(くら)きこゑまじりもだゆる。

 

なべてみな惱(なや)み入る、夏の夜(よ)のいと靑き光のなかに。――

蒸し暑(あつ)き軟(なよ)ら風(かぜ)もの甘(あま)き汗(あせ)に搖(ゆ)れつつ、

ほつほつと點(と)もれゆく水(みづ)の面(も)のなやみの燈(ともし)、

鹹(しほ)からき執(しふ)の譜(ふ)よ……………み空には星ぞうまるる。

 

かくてなほ惱み顫(ふる)ふわかき日の薄暮(くれがた)のゆめ。――

見よ、苦(にが)き闇(やみ)の滓(をり)街衢(ちまた)には淀(よど)みとろげど、

新(あらた)にもしぶきいづる星の華(はな)――泡(あわ)のなげきに

色靑き酒のごと空(そら)は、はた、なべて澄みゆく。

四十一年七月

 

[やぶちゃん注:第一連「穹窿(ああち)」アーチ。Arch。橋下の下部のそれ。

第一連「泥舟(どろぶね)」泥や土砂を積んで運ぶ荷船。土船(つちぶね)。これはそうした舫(もやい)に揺られる生業(なりわい)に生きる者たちが、その船の一角に家族で住んでいる。炊ぐのは妻か娘か。小さな小さな「撫子」の鉢植えの一輪のピンクだけが、モノクロームの画面にぼぅっと発色する。一九八一年公開の小栗康平監督の名品「泥の河」を髣髴させる一行である。

第二連「惱(なや)ましの角(つの)光り電車すぎゆく」パンタグラフのスパーク。

第二連「瓦斯」「がす」或いは「ガス」。ガス灯。]

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