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2020/10/28

北原白秋 邪宗門 正規表現版 鉛の室

 

   鉛 の 室

 

いんきは赤し。――さいへ、見よ、室(むろ)の腐蝕(ふしよく)に

うちにじみ倦(うん)じつつゆくわがおもひ、

暮春(ぼしゆん)の午後(ごご)をそこはかと朱(しゆ)をば引(ひ)けども。

 

油じむ末黑(すぐろ)の文字(もじ)のいくつらね

悲しともなく誦(ず)しゆけど、響(ひび)らぐ聲(こゑ)は

鏽(さ)びてゆく鉛(なまり)の悔(くやみ)、しかすがに、

 

强(つよ)き薰(くゆり)のなやましさ、鉛(なまり)の室(むろ)は

くわとばかり火酒(ウオツカ)のごとき噎(むせ)びして

壁の濕潤(しめり)を玻璃(はり)に蒸す光の痛(いた)さ。

 

力(ちから)なき活字(くわつじ)ひろひの淫(たは)れ歌(うた)、

病(や)める機械(きかい)の羽(は)たたきにあるは沁み來(こ)し

新(あた)らしき紙の刷(す)られの香(か)も消(き)ゆる。

 

いんきや盡きむ。――はやもわがこころのそこに

聽くはただ饐(す)えに饐(す)えゆく匂(にほひ)のみ、――

はた、滓(をり)よどむ壺(つぼ)を見よ。つとこそ一人(ひとり)、

 

手を棚(たな)へ延(の)すより早く、とくとくと、

赤き硝子(がらす)のいんき罎(びん)傾(かた)むけそそぐ

一刹那(いつせつな)、壺(つぼ)にあふるる火のゆらぎ。

 

さと燃(も)えあがる間(ま)こそあれ、飜(かへ)ると見れば

手に平(ひら)む吸取紙(すひとりがみ)の骸色(かばねいろ)

爛(ただ)れぬ――あなや、血はしと、と卓(しよく)に滴(したた)る。

四十年九月

 

[やぶちゃん注:「卓(しよく)」は現代仮名遣「しょく」で、これは唐音。かく読んだ場合、狭義には仏前に置いて香華を供える机を指し、これは茶の湯にも用いる。広義には食卓で、私はここは後者の「テーブル」でよいと考えている。]

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