北原白秋 邪宗門 正規表現版 硝子切るひと
硝 子 切 る ひ と
君は切る、
色あかき硝子(がらす)の板(いた)を。
落日(いりひ)さす暮春(ぼしゆん)の窓に、
いそがしく撰(えら)びいでつつ。
君は切る、
金剛(こんがう)の石のわかさに。
茴香酒(アブサン)のごときひとすぢ
つと引きつ、切りつ、忘れつ。
君は切る、
色あかき硝子(がらす)の板を。
君は切る、君は切る。
四十年十二月
[やぶちゃん注:「茴香酒(アブサン)」「天鵝絨のにほひ」の私の注を参照。]
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